ぼくはひどい失恋をして、ご飯が食べられなくなった。
失恋するとご飯が食べられなくなるって本当?男同士の恋愛で失恋して、最初に食べられたのはバナナだった
目次
・失恋するとご飯が食べられなくなるというのは本当か?
よく世間一般的に「失恋するとご飯を食べられなくなる」と言われるが、それって本当だろうか。いくらひどい失恋をしたからと言って、体が健康ならばお腹は自然と空いてきそうなものだが、本当のところはどうなんだろうか。
食べられなくなるほどショックな失恋なんて心がボロボロになるほどのかなりひどい出来事だろうから、人生でなるべくそんな経験はしたくないと思いながら生きていたが、なんと実際にぼくの身にもご飯を食べられないほどの失恋が襲いかかってきたのだった。
・同性愛者のぼくは、異性愛者の彼と恋人同士のような日々を過ごした
ぼくが失恋でご飯を食べられなくなってしまったのは、大学時代のことだった。ぼくは同性愛者(ゲイ)で、好きになってしまった相手は異性愛者(ノンケ)の同級生の男の子だった。もちろんぼくがいくら彼を好きになったところで、彼の方は女の子が好きなので、叶わない恋心だとわかりきったつもりだった。
しかし人生には不思議な奇跡のような出来事が1つか2つは起こるもので、異性愛者の彼はぼくに「好き」だと言ってもらえるようになり、合鍵を交換したり、抱きしめ合ったり、キスをしたり、一緒に寝たり、触り合ったりして恋人同士のような関係になることができた。ぼくは同性愛者として生まれて、日常生活で自然と好きになった人に好きになってもらえることなんてないと思い込んでいたから、彼との経験は神様からの贈り物のように思われたし、彼と過ごした恋人のような日々を心から尊く感じていた。
・異性愛者の彼は、当然のように女の肉体を追い求めることをやめなかった
しかし毎日ぼくに「好き」だと言って抱きしめ合って恋人のように一緒に寝ていても、彼が女の子の肉体を抱きたいという本能からの情熱を止めることはできなかった。恋人のようにぼくを愛してくれたその後で、彼はぼくに今度女の子を紹介してもらうんだと嬉しそうに話すのだった。まだ童貞の彼は、自らの若い肉体がとめどなく作り出す生殖の液体を早く女の子の体内に注ぎ込みたくて仕方がないのだった。けれどそれは彼だけじゃなく、彼と同じような若い異性愛者の男の子ならみんなそうだった。彼の中で、ぼくに「好き」ということと、女の子を紹介してもらって女の肉体を追いかけることは、両立していいことになっているらしかった。
ぼくたちが男と女なら、普通なら、毎日「好き」だと言って抱きしめ合って、キスをして、触り合っているというその事実だけで恋人になれるはずだった。だけどぼくたちは男と男だから、どんなに恋人のような関係になっても恋人同士にはなれなかった。彼はそれを利用して、ぼくを「好き」だと抱きしめながら、一方で女の肉体を探し求め続けていた。そしてそれをぼくに告げても、ぼくは傷つかないべきだと言わんばかりに、平気な顔をして女の子を紹介してもらうことを教えてきた。
ぼくは彼が誰でもいいから女の肉体を追い求め続けていることを知ると、いつも嫉妬して、不機嫌になって、絶望して、彼に迷惑をかけた。ぼくに「好き」だと言ってくれるなら、他の人には言わないでほしい。ぼくが女に子なら堂々とそう言えるのに、ぼくは男の肉体を持っているから、死んでも彼にそんなことは言えなかった。
ある日彼がまた女の子を紹介してもらう話をしてきたので、ぼくは「ぼくの気持ち知ってるくせに」と言って怒って、スネて、彼を困らせた。彼は「まぁ合ってるかはわからないけれど、もしソレが当たっているならば、もう一緒にはいられない」とぼくに返した。ソレとは確実に、ぼくが同性愛者で彼を好きだということを意味していた。だけど彼の主張は意味不明だった。これまで何度も男同士であろうと2人で「好き」と言い合って、抱きしめ合って、キスして、大切な場所もお互いに触り合って、一緒に寝て、恋人のようにふるまってきたのに、ひとたび女の肉体が手に入りそうな気配がすると、ぼくのことを突き放して、2人の何度も繰り返してきた同性愛的な経験をなかったことにして、自分だけ完全な異性愛者のフリをして、2人の同性愛的体験をぼくだけに押し付けて、さらには同性愛的だと一緒にいられないと主張するなんて見当外れも甚だしい自分勝手な意見だった。
それと同時に、ぼくは同性愛的だということも含めて彼に受け入れられ、抱きしめられていると思っていたのに、同性愛者なら一緒にはいられないと言われたのがショックだった。ぼくが同性愛者だと知っているのは、この世で彼1人だけだった。ぼくの秘密を、ただ彼だけが知っていた。それは2人だけの部屋で彼と愛し合うことによって、彼に確かに示されていた。ぼくは彼に発情し、彼はぼくに発情しているのを、2人の同じ形をした熱い果実が確かに物語っていた。ぼくの秘密は、ぼくだけのものじゃなく、ぼくたちの秘密となった。それなのに同性愛的であることを否定されるなんて、ぼくは闇の中に突き落とされた気分だった。
同性愛的であることの何が悪いのだろう。ぼくはずっと彼のことだけを好きだった。それなのに彼はただ女の肉体を経験したいばかりに、ぼくが見てきた中でも誰でもいいから女の子をつかまえようと必死になっていた。それが男というものの自然な性だというのならそれまでだが、本能のままにむさぼるように異性の肉体をやたらと求める異性愛者の彼の姿より、ずっと彼のことだけを見ている同性愛者の自分の方が幾分かマシだと感じた。自分だってぼくと同性愛的経験を繰り返しているのに、都合のいい時だけ同性愛を否定する彼の態度は卑劣だと感じたし、それよりもぼくの気持ちを全く大切に思ってくれないことが悲しくて、彼に彼の部屋の合鍵を返して、もう合わないようにしようと彼の部屋を出た。
・ひどい失恋をすると、本当に何も喉を通らなくなった
彼とは日々小さな喧嘩を繰り返していたけれど、本当に会えなくなるほど心が離れたのは初めてだったし、合鍵を返すほど傷ついたのも初めてだったので、その時のショックは大きかった。ずっと一緒だった彼ともう会わないことを決めたので、これは失恋みたいなものだった。ぼくが男を好きになることを知っているのは彼だけだった。ぼくは彼と喧嘩しても、失恋しても、誰にも相談できずにひとり自分の部屋で孤独に泣いているしかなかった。
その時は絶望と悲しみのあまり、本当に何も食べられなくなり、ずっと自分の部屋で泣いていた。「失恋するとご飯を食べられなくなる」というのは本当なんだなぁと、今過去をふり返ってみると冷静に分析できるが、当時のぼくにはそんな心の余裕はなかった。ただ悲しみと苦しみで、息が詰まりそうになって、胸がいっぱいになって、何も喉を通りそうになかった。健全な肉体で生きていても、全くお腹も空かないし、食欲がわかないほどに悲しいことってあるんだなぁと、虚ろに感じていた。
・失恋したら本当に食べられなくなるけれど、1週間もすれば食欲は戻る
そんな状態が三日三晩続いたが、やはり健全な肉体を持っているので徐々に空腹を感じるようになってきて、3日目には消化のいいものを食べ始めた。何か料理を作るような精神状態にはどうしてもなれなかったので、まずはバナナを食べた。バナナと、お茶やジュース、そしてちょっと気力が戻るとカップラーメンを食べた。一度食べ始まると徐々に体が元の状態に戻ってきたので、1週間経てば精神状態はズタズタのままでも、食生活は普通通りに回復した。
なるほど「失恋するとご飯を食べられなくなる」という世間一般の常識は本当だったが、それは肉体がやせ細ってしまうほどでもなく、3日も経てば徐々に消化のいいものを食べられるようになり、1週間も経てば食欲だけは戻るものだ、どんなにひどい失恋の経験をしてもその程度なんだなぁと、ぼくは自分の経験から失恋と食欲と自分の肉体の関係を自ら学び取ったのだった。
・大学時代のぼくの2番目の恋について
・同性愛について