ぼくを裏切って終わりなき悲しみを注ぎ込んだのに、ノンケの彼は自分の方が孤独だと言ってうなだれた
・10人に1人
「ぼく、ひとりぽっちやねんけど ひとりぽっちで生きてる意味あるんかな」
『ひとりじゃないやろ 10人に1人はそうらしいで』
「10人に1人はそうらしいでって 自分は違うみたいに言うんやな ふたりで好きって言い合ったんやから Sもそうやねんで 自分は違うみたいな顔しないで ふたりで 好きって言い合ったんやから」
・俺の方がひとり
「普通さぁ 例えば今みたいにずっと好きって言い合ってた人に裏切られたとしたら 友達とかに相談できるやん? そんで、そういう話って誰かに聞いてもらうだけでも ちょっとはすっきりするやん? でもぼくは誰にも言えないやん? Sとのことは普通じゃないから ひとりで悩むしかないやん? ひとりで泣くしかないやん? ぼく ひとりぽっちやねんけど」
『はは』
「何?」
『俺の方がひとりやし』
自分の方がひとりぽっちだと、彼は本当に泣きそうな顔になった。どうしてあなたが泣くの。泣いていいのはぼくだけなのに。あなたに泣かせたくない。裏切ったくせに、嘘ついたくせに、傷つけたくせに、泣くなんて許さない。それなのにぼくは知らぬ間に、彼を抱きしめていた。
・ふたりのせい
「なんでこんなことになったんやろ」
『分からん』
「なんでやろ」
『分からん』
「こっちのせいなん?」
『分からん』
「こんなんになったのはふたりのせいやで
ふたりで好きって言い合ったんやから」
『うん』
彼の部屋から帰るとき、玄関での会話。いつもなら帰るとき、強く抱きしめ合って、キスをしてからさよならするのに、彼はもう、ぼくの方を見ていない。
・ぼくを裏切って終わりなき悲しみを注ぎ込んだのに、ノンケの彼は自分の方が孤独だとうなだれた

人がどれだけ孤独かなんて、本人にしかわからないんだね。ぼくにはぼくの孤独があって、あなたにはあなたの孤独があった。ぼくを裏切ってあなただけが、幸せになることを約束されているかのように見えていたけれど、ぼくはあなたじゃないから、あなたの孤独の冷たさを計り知れなかった。そしてあなたもぼくの生命に降り注ぐ、終わりなき悲しみの音色をきっと知らない。
ぼくたちは強く抱きしめ合って、キスをして、好きだと何度も呼び合ったけれど、ぼくたちはお互いの孤独を、何ひとつ知らずにいたのだろうか。わかりあえるように向き合っただろうか。人間と人間が完全にわかり合うことなんて、決してできない。それでもわかり合いたいと願う人に、人生で出会えるならばそれは幸福だ。
わかり合える人なんて、一生にひとりでいい。たくさんの人に心を開けば開くほど、本当の自分が穢されてしまうから。ぼくはこの一生で、あなたにだけ本当のぼくを見せた。そしてあなたがぼくにだけ、見せた弱さの尊さを知っている。
・大学時代のぼくの2番目の恋について
