好きな人に好きだと言われない一生だと思っていた。
言われるはずのない同性愛の人生の中で、ノンケの彼はゲイのぼくに「愛してる」と告げた
目次
・同性愛者のぼくは好きな人に好きだと言われない運命だと悟った
高校時代に同級生の男の子に初恋をして以来、ぼくはきっと当たり前の恋愛なんてできないのだろうと信じていた。男を好きになる男のぼくは日常生活の中で、好きな人ができて、告白して、付き合って、結婚してという、誰もに許されているように見える恋愛の可能性が限りなく0に近いことを予感した。ぼくが日常生活の中で好きな人を見出しても、きっとその男の子は女の子を好きな可能性の方がはるかに高いだろう。ぼくの恋が叶うはずなんてなかった。ぼくはきっと、好きな人に好きだと言われることもなく一生を終えるだろうと高校生の時に覚悟していた。
高校時代の初恋も当然叶わなかった。彼に2回ほど告白したけれど、知らないフリをして流されただけだった。多分嫌われなかった分マシだったけれど、それは彼なりの気遣いだったのかもしれないけれど、ぼくが彼に向き合って好きだと告げても、彼がぼくにきちんと向き合ってくれることはないんだと悟った。
・大学時代、片思いしていたノンケに好きだと言ってもらえるようになった
もう人を好きになりたくなかったのに、大学時代にまたノンケの同級生に片思いをした。彼は男子校出身の典型的な発情した男子大学生だった。童貞の彼は初めての彼女を作ろうと必死だったし、家には男性用のエッチなDVDがいくつも並んでいた。彼がぼくを好きになってくれるはずはなかった。
ぼくは彼に好きな気持ちを言えないまま親友として近づける限り近づいて、幸せを感じるしか道はなかった。最初は彼の肩に頭を乗せて遊んだり、次には膝枕してもらったり、髪を撫でてもらったり、その時にお腹を抱きしめたりして友達として許されると予想される範囲を行ったり来たりしていた。それは2人きりの時にしか行われなかったけれど、少しずつ距離を近づけたので彼が嫌がる様子は全くなかった。嫌がられたら悲しくてもその時点で止めようと思っていたけれど、彼が嫌がらないで優しくしてくれたことが嬉しかった。
2人で会うときはそんな風に過ごすのが習慣になった頃、ぼくはとうとう隠しきれなくなって、彼とくっついている時に彼に向かって小さな声で「好き」と告白してしまった。彼はわかっていたような顔で笑って「うん」とだけつぶやき、その日は何も言わなかった。高校時代みたいにこの告白もなかったことにされて終わりかなと思っていたけれど、数日後彼からぼくに「好きだよ」と返してくれた。ぼくは驚いたと同時に、信じられなかった。この人生は、男を好きになるぼくの人生は、好きな人には好きと言われない人生だと固く信じていた。けれどそんな思い込みを、彼が奇跡のように打ち破ってくれた。
明らかにノンケの彼がなぜ男のぼくに好きと言ってくれるのか、よくわからなくて初めは混乱したけれど、そんな疑問も超越してしまうほどの不思議と自然な感覚が、2人の間に流れているのを感じた。ぼくたちはそれ以来会うたびに「好き」と言い合う関係になった。
・奇跡は続き、ノンケの彼と恋人同士のように逢瀬を重ねた
信じられない奇跡はまだ続いた。ぼくたちは「好き」と言うたびに強く抱きしめ合うようになった。そして彼からキスしてくれるようになり、ノンケの彼とゲイのぼくはキスする関係になった。もはや2人の「好き」という言葉が親友の「好き」を超越していることは誰から見ても明らかだった。ぼくと彼は合鍵を交換し、まるで恋人同士みたいにお互いの部屋に通い合った。
最後にぼくたちは、まだ誰にも触らせたことのない秘密の果実をお互いに触って、同じ快楽と幸福を共有するまでになった。ノンケのはずの彼の果実が、ぼくの肉体を触ることによって固く膨張していることを不思議に思いながらも、それが前から決められていたことであるかのように自然と、ぼくは掌に彼の熱と鼓動を感じ取っていた。
・彼はたった一度だけぼくに「愛してる」と言ってくれた
ぼくと彼は数えきれないくらい「好き」と言い合ったけれど、彼がぼくをじっと見つめて一度だけ「愛してる」と言ってくれた日があった。その日は何も特別なこともなく、単なる日常のうちのひとつの過ぎ去る時間だったから、どうして急に彼がそんなことを言うのか驚いてしまった。けれどなんでもないような時に不意に込み上げてくる感情こそが、本当の彼の気持ちだったのかもしれない。ぼくはこの人生で好きな人に好きだと言ってもらえることだけでも信じられない思いだったのに、愛してるまで言ってくれるなんて感動して泣きそうだった。泣いたら彼に笑われると思ったので涙をこらえながら、ぼくも「愛してる」と彼につぶやいた。
・大学時代の2番目の恋は、ぼくにとって神秘的な宿題
「愛してる」って、人生で何回くらい言う言葉なんだろう。きっといっぱい言う人もいれば、ほとんど言わない人もいるだろう。気軽でありふれた言葉なんだろうか、貴重で尊く神秘的な言葉なんだろうか、それも人によるのだろう。彼はぼくに一度だけ「愛してる」とつぶやいた。一度だけ、何もないときに言ってくれたことが、逆に本当に大切にしている言葉みたいで嬉しかった。
ぼくはゲイだから彼に「好き」とか「愛してる」というのは、遺伝子に埋め込まれた本能の当たり前の作用なのかもしれない。けれどノンケの彼に、ぼくに向かって「好き」やましてや「愛してる」と言わせたものは一体何だったのだろうか。彼の本能は確実に、盛んに女の肉体を求め続けていた。彼の部屋にも携帯電話の中にも、男の肉体を求める痕跡は一切なかった。彼はなぜぼくに好きだと言ったのだろう。
神様の気まぐれだろか、仏様の慈悲の心だろうか、大自然や大宇宙の神秘がぼくに味方したのだろか、どんなに考えても、学校の問題集のように正しい答えは与えられない。どんなに必死に答えを求めて絶対にこれだと言い切っても、誰もそれが正解だとも不正解だとも教えてはくれない。その答えが、彼という個人的な性の不思議ばかりではなく、人間の神秘、人間の性の奥深さと正体を導き出す手がかりになるのかもしれない。大学時代の2番目の恋は、ぼくにとっては宿題だ。どんなに考えてもわからないからこそ一生をかけて考え抜いてしまう、途方もなく神秘的でやりがいのある宿題だ。
・大学時代の2番目の恋について