こんな恋をしてきたことを、いつ見ても思い出すだろう。
ゲイとノンケの複雑な恋愛模様!映画「窮鼠はチーズの夢を見る」で心に残った9つのセリフを考察
目次
・映画「窮鼠はチーズの夢を見る」のあらすじ
アマゾンプライム「窮鼠はチーズの夢を見る」という映画を見た。この映画が心に焼き付いて離れないのは、ぼく自身こんな経験を通り抜けてきたからなのかもしれない。
映画の主人公はゲイの今ヶ瀬渉と、既婚者でノンケの大伴恭一。大学時代に初めて出会ったときから恭一のことが好きだった今ヶ瀬は、大学を卒業して離れてからもずっと恭一のことを忘れられないでいた。探偵として浮気調査を依頼された今ヶ瀬は、調査対象者がずっと好きだった恭一だと知って驚く。恭一は実際にひとりの女性と浮気を繰り返しており、その証拠を掴んだ今ヶ瀬はいい機会だと恭一に近づく。
浮気を奥さんに知られたくない恭一は今ヶ瀬の希望を聞き入れ、キスすることを許してしまう。その後も浮気する度に口止めとしての今ヶ瀬の行動はエスカレートし、口でするほどまでに二人の関係は発展する。しかし実は恭一の奥さんの方も浮気をしており、彼氏のために別れたいと奥さんから浮気を切り出されることで、恭一は離婚する。
一人暮らしを始めた恭一の家に今ヶ瀬は転がり込み、喧嘩したり近づいたりを繰り返しながら、最終的に肉体関係を結び恋人のような関係に至る。しかし嫉妬深く疑い深い今ヶ瀬は、ノンケの恭一がまたいつ裏切って女性のところへ行ってしまうのかと思うと憂い苦しみ、最終的には今ヶ瀬の嫉妬深さが原因で別れることになってしまう。
別れてから恭一は会社の後輩の女性と付き合い、婚約までする。けれどどうしても恭一を忘れられない今ヶ瀬はその後も恭一から離れられずに、近づき、肉体関係を続けてしまう。最終的には今ヶ瀬を大切に思う恭一は婚約を破棄し、また立ち去っていってしまった今ヶ瀬を部屋で待つというシーンで映画は終了する。
映画「窮鼠はチーズの夢を見る」の素敵なところは、心に残るセリフが映画の中に散りばめられていることだった。ここではぼくが映画の中で印象に残った言葉を紹介していこうと思う。
・「完璧な人をみんな探してると思ってるんですか?」
恭一「俺はさぁお前がそんなにこだわるようないい男じゃないよ」
今ヶ瀬「わかってますよそんなの、あんたみたいなのは最悪だ。だけどね見た目が綺麗で人間ができてて自分にいい思いさせてくれるような完璧な人をみんな探してると思ってるんですか?そういうもんじゃないんだよ」
今ヶ瀬のセリフは、人を好きになることの真理を言い当てているように感じる。どんなに好きになりたくなくても、たとえ相手が好きになりたくないほど人間性が悪くても、好きになってしまったからにはどうしようもない。好きになる感情は、天災のようにある日突然運命としてやって来る。
・「好きな人に呼ばれたらすぐに飛んでいくような男なんですよ俺は」
恭一「おまえはなんで来たの?」
今ヶ瀬「好きな人に呼ばれたらすぐに飛んでいくような男なんですよ俺は」
喧嘩別れしたのに恭一が電話で呼んだら、今ヶ瀬がすぐに駆けつけたシーンの会話。好きになった人にはどうしても弱くなってしまう人間の可愛さが素直に描かれていて心安らぐ。
・「8年?ほんとよく頑張ったよね、お疲れ様。」
恭一の大学時代の元カノ「8年?ほんとよく頑張ったよね、お疲れ様。」「わかってる?女と男だよ?」
恭一の大学時代の元カノが、恭一と今ヶ瀬が同棲していることを知り、恭一に今夜今ヶ瀬と私どっちを選ぶのかと迫るシーン。今ヶ瀬が大学時代からずっと恭一を好きだと聞き、元カノは見下すように「8年?ほんとよく頑張ったよね、お疲れ様。」と呟く。恭一に愛されるべき女性の肉体を持っている元カノと、愛されるはずのない肉体を持っている今ヶ瀬が、どう対立してあがこうとも、ノンケの恭一が元カノを選ぶというのは明白であり、ゲイは結局女性には勝てないという運命的な示唆が元カノの見下しには表れている。
・「俺はお前を選ぶわけにはいかないよ。」
恭一「俺はお前を選ぶわけにはいかないよ。普通の男には無理だって。わかるよな?」
今ヶ瀬「はい。」
結局恭一は女性の肉体を持つ元カノを選び取る。しかしそんなの当然だ、分かりきっているという風に告げられる今ヶ瀬の「はい。」という言葉が胸に突き刺さる。分かりきった運命を受け入れて、それでも人は夢見ながら生きていくしかない。
・「大学の頃、あなたのタバコになりたいと思ってたんだ。」
今ヶ瀬「大学の頃、あなたのタバコになりたいと思ってたんだ。指先に挟まってるあなたのタバコが羨ましかったんです。」
今ヶ瀬がタバコを吸う恭一を眺めながら、恭一に過去の思いを告げるシーン。恭一は「バカだねお前は」と笑って返す。
・「あなたじゃだめだ。」
今ヶ瀬「あなたじゃだめだ。あなたには俺じゃだめだし。」
恭一と今ヶ瀬が喧嘩して別れるシーン。自分には恭一しかいないとわかっているのに「あなたじゃだめだ」と告げるしかない、恋情と運命との間でもがく葛藤が描かれていて胸が痛む。
・「あまりにも相手を好きになりすぎると、自分の形が保てなくなる」
恭一と婚約する女性「あまりにも相手を好きになりすぎると、自分の形が保てなくなって壊れるんですよね。」
今ヶ瀬と別れたばかりで傷心している恭一に向かって、一夜を共にした会社の部下の女性が恭一に呟いたセリフ。
・「お前はもう要らない。」
今ヶ瀬「そばに置いてください。彼女との結婚を止めようなんて思ってませんから。ただ月に一度、半年に一度会ってくれればそれでいい。体の関係なんかいらないし、絶対に迷惑かけないから。全部言う通りにするから。」
恭一「要らない。お前はもう要らない。」
今ヶ瀬「そりゃそうだ。最初から、出会った時からそう言ってくれればよかったのに。」
恭一のことがどうしても忘れられず、別れてからもしつこくつきまとうシーンで、恭一は今ヶ瀬に結婚することにしたと告げる。それでも会いたいと願ってしまう今ヶ瀬に対して、今ヶ瀬のためにと恭一は敢えて冷酷に「お前はもう要らない」と告げる。最初から「要らない」と言われることが決まっているならば、頑張ってふり向いてもらおうとも思わないのにという、人間の恋の虚しさが表現されていて面白い。中島みゆきの「ほうせんか」の歌詞を思い出す。
・中島みゆき「ほうせんか」
悲しいですね人は誰にも
明日流す涙が見えません
別れる人と分かっていれば
はじめから寄り付きもしないのに
・「心底惚れると、全てにおいてその人だけが例外になる」
今ヶ瀬「心底惚れるって、全てにおいてその人だけが例外になっちゃうってことなんですね。あなたにはわからないか。」
恭一「わかるよ。ごめん。本当にありがとう。」
映画の最後の回想シーンで、別れの前に海辺で今ヶ瀬と恭一が交わした会話。今ヶ瀬は本当は恭一みたいな奴が大嫌いなのに、なぜか恭一だけは例外的にそんなこと関係なく好きになってしまう。好きという思いがあらゆる制約や境界を超えて、いかに人間を突き動かす強い原動力になるかが描かれている。性別を超越した愛を描いた映画のラストにふさわしい、意味深いセリフだった。
・ぼくの高校時代の初恋について
・大学時代の2番目の恋について
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