彼だけが、本当のぼくを知っている。

別れたくても別れられない…大好きなノンケの彼に呼ばれると、ぼくはすぐに彼の元へ舞い戻った
目次
・大学時代、ゲイのぼくとノンケの彼は恋人同士みたいだった

大学時代、ゲイのぼくと同級生のノンケの彼は不思議なことに恋人同士のような関係になった。合鍵を交換しお互いの部屋を行き来して、「好き」と言っては抱きしめ合い、甘え合い、キスして、触り合っていた。
けれど若い彼の燃え盛る本能はいつも女の肉体を求めていた。ぼくという例外がいてもそれを止めることなど到底できずに、ついに彼は人生で初めての彼女を作った。けれど彼はぼくに決してそれを教えてはくれなかった。ぼくはそれを裏切りだと憎んだし、彼もそれが裏切りに当たると知っていたから、ぼくに何も言わなかった。2人が最も幸せになる道は2人が会わないことだと悟り、ぼくはもう彼の部屋に行かないことを決めた。
ぼくが彼の部屋に行かなくなってからも、ずっと彼からの連絡は来なかった。本当に心から欲していた女の肉体を手に入れて、ぼくのことなんてどうでもよくなったのかもしれない。ぼくよりもはるかに彼の肉体に快楽を与えられる、ぼくの代わりになる女の肉体なんてこの世にいくらでもあったのだろう。彼の部屋の明かりを見ただけで、ぼくの心は締め付けられて泣いていた。彼がぼくをひどく裏切ったのに、ぼくはご飯も食べられなくなるくらいに傷ついて、彼は女の子と幸せになっていることがとても虚しかった。けれどこの不条理こそが人の世の正体だと感じた。少なき者(同性愛者)にはその絶望を語るあてもなく、ただただ心を閉ざして孤独に自分自信を守り抜くしかなかった。
・彼がいてもいなくてもぼくは深い孤独を背負うことを知った

もはや死んだように生きるしかこれからを生き抜く術はなく、ぼくは何事もなかったかのように心を押し殺しながら、何も悲しくないフリをして大学に通っていた。誰にも心の中の深い悲しみを打ち明けられなかった。同級生の男の子を好きになって裏切られた絶望なんて、誰とも共有できるはずがなかった。本当のぼくはずっと泣いているのに、普段の友達は誰もそれを知ることがなかった。人間というものは何ひとつ本当のことなんて見えない生き物だと、ぼくは絶望の淵から彼らを見て思った。見えているものだけが決して全てじゃないと、ぼくは自分自身を顧みながら悟った。
ぼくはもはや彼といないと孤独を感じてしまうようになっていた。本当のぼくを、周りの友達は誰も知らない。本当のぼくを知っているのは彼だけだった。男を好きな男だということも、いつも好きな人に甘えてしまうことも、嫉妬深くてすぐに怒ることも、悲しいときには涙を流すことも、彼しか知らないぼくの秘密だった。それを全部知った上で、彼はぼくを大好きだと受け入れて抱きしめてくれた。本当のぼくを彼しか知らないということは、彼がいなくなるとぼくはひとりぼっちになってしまうことを意味していた。彼を好きだからぼくは孤独を感じると思っていたのに、彼がいないとさらに大きな孤独を背負うことになるということを、ぼくは彼から離れて初めて知った。
・4ヶ月の努力も彼からの2通のメールによって簡単に打ち破られた

彼から離れて、死んだように生きて4ヶ月が経った。どんなに彼の部屋をもう一度訪ねたいと思ったかわからない。けれど2人の幸せのために、もう行かない方がいいのだと自分に言い聞かせ踏みとどまった。いつもどんなにもう会わないようにしようと決意しても、すぐに彼の元へ帰ってしまったぼくだったから、出会ってからこんなに長い間離れたことはなかった。それはきっと、彼がぼくを裏切って彼女を作ってしまったという大きな理由があったからだった。
彼にとってぼくは、全く必要な存在じゃなかったんだ。あんなに好きだと抱きしめ合ったのに、なかったことにされてしまうんだ。彼と一緒にいても、彼から離れても、ぼくの深い絶望に変わりはなかった。
ある日ふと、彼からメールが来た。彼の家に来てほしいというメールだった。ぼくはここでいつものように彼の元へ戻ってしまっては4ヶ月も我慢した意味がないと思い、今は忙しいから無理だと断った。しばらく経つとまた彼から、いつ忙しくなくなるのとメールが来た。ぼくは、まだ忙しいからと行くのを断った。それでもぼくは、大好きな人からの誘いを2回も断れるほど、頑なな心を持っていなかった。本当は1回呼ばれただけでもすぐに大好きな人の元へ帰って抱きしめられたいのに、2回も断るなんてできなかった。
2回目を断ってからすぐに、言葉とは裏腹に、ぼくの身体は彼の部屋へと急いでいた。
・大好きな彼から連絡が来ると、ぼくはすぐに彼の腕の中へと帰って行った

大好きな彼に4ヶ月ぶりに膝枕をしてもらった。4ヶ月ぶりに甘えた。4ヶ月ぶりに抱きしめてもらった。4ヶ月ぶりに好きだと言われた。4ヶ月ぶりにキスをした。初めて彼に好きだと言われたときみたいに、心臓のあたりに不思議な物質が走って行くのを感じていた。
どうして今更ぼくを呼んでくれたのだろう。彼女と別れたのかな?だけど彼女ができたこともぼくに隠している彼に対して、別れたのかどうかなんて聞けるはずもなかった。ぼくはただ、彼がぼくを必要としてくれて、彼がぼくを求めてくれているという事実だけで嬉しかった。
ずっと会えなくて寂しかった?って聞いたら、寂しかったって答えてくれた。ぼくも寂しかったよと言って、そしてまた強く抱きしめ合った。
・彼はぼくに、他の誰にも好きと言っていないと誓った

それからというもの、ぼくたち2人はまた以前のように会うようになった。いつものようにぼくが彼に好きとつぶやくと、彼から「好きっていう言葉は安売りするもんじゃないで」と言われたので、「ぼくはSにしか言ってないよ。Sは他の人にも言ってるんやろうけど」と返した。彼は「はぁ?誰が他の人にも言ってるねん!」と誤魔化すので、「他の人にも言ってるの知ってるもん。他の人にも好きって言ってるならちゃんと教えてよ」と問いただした。彼は「他の誰にも言ってないよ。そんなん言うわけないやろ」とぼくをなだめた。裏切られてさらに疑い深くなったぼくは泣きそうになりながら「本当に信じていいの?」と彼に訪ねた。彼は「信じていいよ」とぼくを抱きしめた。
・大学時代のぼくの2番目の恋について
・ぼくの高校時代の初恋について
・同性愛について
