ぼくたちは一緒に3年生になれなかった。
大学の留年を機に、ゲイのぼくとノンケの彼は少しずつ離れていった
目次
・大学時代、ぼくは大好きなノンケの親友と恋人同士のような関係になった
大学時代、ぼくは同級生のノンケの男の子を好きになった。ぼくが好きな思いを我慢できずに告白すると、それ以来彼もぼくのことを「好き」だと言って抱きしめてくれるようになった。会うたびに好きだと強く抱きしめ合って、キスして、お互いの秘密の果実を触り合った。ぼくたちはお互いの部屋の合鍵を交換して、時間があれば逢瀬を重ねた。もはやぼくたちが、ただの友達や親友と呼ぶことができないことは、誰から見ても明らかだった。誰から見ても明らかだけれど、ぼくたちの秘密は、ただ2人だけのものだった。
・ノンケの彼との恋愛が苦しすぎて、ぼくは通常の学生生活が営めなくなっていった
ぼくに「好きだ」と言いながらも、ノンケの彼は燃え盛る本能に支配されるまま女の肉体を求め続けた。ぼくを「好きだ」と言って抱きしめてくれたそのあとで、友達に紹介してもらった女の子の話をするとぼくは嫉妬して、不機嫌になって、2人はよく喧嘩になった。
そして彼は時々ぼくたち2人の同性愛的体験を受け入れることができずに「あれは冗談だった」「友達として好きと言っただけ」「精神が不安定だった」と否定し、2人で作り上げた尊い時間を心から遠ざけて、ぼくだけが深い孤独の底に落ちていった。けれど彼がぼくたちの同性愛的体験を否定したあとで、彼の心が安定を取り戻せば、ぼくたちはまた抱きしめ合って、キスして、触り合う関係に戻っていった。彼の言っていることとやっていることはいつも異なっていて、ぼくの心は彼よりもより一層乱れていった。
彼との関係がつらく苦しくて、ぼくは大学の通常の学生生活も営めなくなっていった。彼とぼくは同じ医学部医学科の同級生だった。医学部の学生生活には授業や実習や試験やレポートが山ほどあった。ただでさえ大変な学生生活に加えて、彼との不安定な関係がより大きな重圧としてぼくの上にのしかかってきた。もはや水もないのに砂漠の中をかろうじて前へ進んでいる旅人のような状態で、ぼくはこの6年間の忙しく厳しい学生生活を乗り越えられるのかどうかわからなかった。他人から見れば呑気で楽しい学生生活のように見えても、ぼくの背には誰にも見ることのできない重き荷という名の運命が負われていた。
・ぼくは3年生になったけれど、彼は3年生にはなれなかった
ぼくと彼の関係が深まったのは大学2年生だった。それから逢瀬を重ねる中でも、共に勉強して数々の試験をくぐり抜けてきた。押し寄せてくるいくつもの医学勉強の試験をやっと乗り越えたその先で、ぼくはやっと大学3年生になった。けれどそこに、彼の姿はなかった。
彼は試験に落ちて留年したのだった。もう同じ教室で彼の姿を見ることは永遠にできない。ぼくは大学で彼の姿を見かけると心が乱れて、苦しくなってしまうから、彼の姿を見なくて済むようになってよかったのかもしれないと、残酷にも思った。ぼくたちは愛し合う中でも共に勉強して、お互いに助け合って、彼にもいっぱい協力して、試験を乗り越えようと一心同体で努力した仲間でもあった。ぼくたちは共に学年を上がれるように精一杯頑張ったし、彼が学年を上がれることはぼくの願いでもあった。けれどその結果として彼の努力が足りないと見なされてしまったのでは仕方がない。ぼくに好きだと毎日言いながらも、女の子の肉体を求め続けている罰なんじゃないかと、残酷にも少し思った。
・留年を機に、ゲイのぼくとノンケの彼は少しずつ離れていった
大学3年生の学生生活も、2年生と同じくらいかそれ以上に忙しかった。ぼくと彼は同じ学年ではなくなったのだから、もはや一緒に勉強することはできない。ぼくの3年生の試験勉強が忙しくなるたびに、彼と出会う時間も少しずつ減っていった。彼は3年生に上がれなかったことでやる気を失くし、大学にも通わずに毎日部屋で寝ながらダラダラと過ごしていた。ぼくは親友として彼に大学にきちんと行くように促したけれど、彼の気持ちが変わらないことにはどうしようもなかった。
ぼくはもう、このまま彼と少しずつ離れ離れになる方がいいんじゃないかと感じていた。ぼくはひとつも変わらずに彼だけを好きだったけれど、彼はぼくに好きだと言いながらも、どうしようもない根源的な本能の部分では女の肉体を求めている。そんな矛盾の中で魂を引き裂かれるように生きることが、どれだけ自分にとって苦しいことか散々わかっていた。彼によって自分の心が壊されてしまうんじゃないかと思って、彼から何度も離れようと努力した。けれど2人はどんなに離れても、どちらからともなく再び求め合い、抱きしめ合う運命を持っていた。ぼくたちは離れたくても離れられなかった。何か大きな力が、ぼくたちを引き離すことを妨げた。
けれどもはや彼の留年という、学年を隔てられる絶好の機会を得たのだから、今度こそ本当にさよならできるかもしれない。どんなに離れようとしても無理だったものが、今度こそ実現できるかもしれない。ぼくはもう、彼に心を引き裂かれない日常を求めていた。そのためには2人が、さよならするしか道はなかった。ぼくは彼が大好きだから、彼から連絡をもらうとすぐに嬉しくなって彼の部屋へ飛んでいってしまう。けれどぼくから連絡をしなければ、きっともう会うこともないだろう。今までは大学で彼を見かけるたびに会いたくなって、ぼくから彼の部屋を訪れてしまっていたけれど、学年が別々になった今、彼を大学で見かける機会はなくなり、ぼくの心は少し彼から解放された。
このまま彼のことなんか忘れてしまえればいい。このまま会わなくなってしまえばいい。このまま関係が終わってしまえばいい。もう好きだなんて言われたくない。自分の心に嘘なのか本当なのか、自分でもわからないような思いが次々に浮かんでは消えていった。けれどこのまま会わなくなることが、きっと2人にとって最もいい道だった。
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