ぼくは次第にこの世で魂を失くし、憂世離れしていった。
ノンケの彼との恋愛がつらく苦しすぎて、ぼくは通常の学生生活が営めなくなっていった
目次
・大学時代、ぼくは大好きなノンケの親友と恋人同士のような関係になった
大学時代、ぼくは同級生のノンケの男の子を好きになった。ぼくが好きな思いを我慢できずに告白すると、それ以来彼もぼくのことを「好き」だと言って抱きしめてくれるようになった。会うたびに好きだと強く抱きしめ合って、キスして、お互いの秘密の果実を触り合った。ぼくたちはお互いの部屋の合鍵を交換して、時間があれば逢瀬を重ねた。もはやぼくたちが、ただの友達や親友と呼ぶことができないことは、誰から見ても明らかだった。誰から見ても明らかだけれど、ぼくたちの秘密は、ただ2人だけのものだった。
・ぼくたちは魂から求め合っていたけれど、それは決して楽な道のりではなかった
ぼくたちは男が男を好きになるはずがないという恐れを乗り越えて、お互いに確かに求め合い、尊い超越の愛の感覚を共有した。けれどぼくを「好き」だと言って強く抱きしめながらも、ノンケの彼の燃え盛る本能は同時に女の肉体を必死に求めていた。「好き」だとぼくにキスしたその後で、彼は友達から紹介してもらった女の子の話題をぼくに嬉しそうに話すのだった。嫉妬深いぼくは不機嫌になって、彼を困らせてよく喧嘩になった。ぼくに「好き」だと言って毎日抱きしめ合っているのに、ぼくの他に抱きしめる肉体をさがさないでほしかった。けれどそんな願いは無理だとはじめからわかっていた。ぼくの肉体は女の肉体ではなく、彼を包み込むことすらできない。ぼくの肉体で彼の燃え盛る本能が満たされることがないことは、最初から決まっていたことだった。彼は初めての彼女を作り、童貞を卒業することをいつも夢見ていた。ぼくと彼が全然異なる夢を見ていることは、明らかだった。
彼は「男と男が愛し合うなんておかしい」という社会的な常識から抜け出すことができずに、たまに心が不安定になってはぼくとの秘密の日々を否定してきた。「あれは冗談だった」「友達として好きだと言っていた」「情緒不安定だった」「精神状態がおかしかった」などと言っては、ぼくの心を深く傷つけた。ぼくが何よりも大切で尊いと感じている2人のかけがえのない時間を、彼は身勝手に踏みにじっては、ぼくの心をことごとくえぐった。2人の尊い秘密の日々は、お互いに魂から求め合ったからこそ立ち現れた、2人で作り上げた楽園だった。ぼくは2人の尊い宝物が、彼の怯えと恐れによって破壊されそうになるのが耐えられなかった。このままでは自分の心が壊れてしまうそうだと彼から離れようと何度も決意したけれど、真実では2人の魂は求め合い、すぐにまたどちらからともなく好きだと抱きしめ合う関係に戻っていった。2人を引き離すことのない運命の力が、正体のわからない大いなる力によってもたらされているみたいだった。
・毎日「好き」だと言い合っているのに、どうして男女のように恋人同士になれないのだろう
彼と2人で秘密の関係を続けつつも、それとは別に普通の大学生活も送らなければならなかった。彼のことで孤独に悩み心が滅ぼされそうになりながらも、大学生活では普通の笑顔で周囲に対応しなければならないのが何よりもつらかった。本当は泣きながら誰かにぼくの話を聞いてもらいたかった。できることなら彼との関係を全て打ち明けてこの悲しみを共有したかった。けれどそれは許されない行為だった。男と男が愛し合っていることを知られることは、いけないことだと誰から教えられることもなく信じていた。だからぼくは誰にも言わずにひとりきりで抱え込んで、友達みんなの前では普通に笑って、部屋に帰ってからひとりでうずくまり泣いていた。
普通の大学生活では、男と女が付き合っていることがいつも話題の中心にあった。飲み会では友達の男女がめでたく恋人同士の関係になったことが明かされ、みんなが彼らにどんな風に告白したのか聞いていた。男は照れながら「普通に好きですって告白したよ」と答えていた。それを聞いてぼくはまた深い孤独に落ちていった。普通は「好きです」っていうだけで恋人同士になれるんだと、当たり前の事実を見せつけられた気がした。
それならばぼくと彼はいつも会うたびに「好きだよ」と言って抱きしめ合っているのに、どうして恋人同士になれないのだろう。どうしていつも「好きだよ」と言って髪を撫でたり、抱きしめたり、キスしたり、触り合ったりしているのに、それでもなお他の女の子の肉体を求めていることを彼から当たり前のような顔をして聞かされなければならないのだろう。男と男だったらどんなに「好き」と交わし合っても、男女関係のときのように誓いや約束にはならないのだろうか。男と男の方が「好き」だと言うのに勇気がいるに違いないのに、そして男同士で「好き」だと交し合えるのは稀有で尊い経験であるはずなのに、ぼくと彼の「好き」の方がはるかに何の役割も果たしていないことが虚しく感じられた。
・同級生の何気ない会話さえ、ぼくの心を深く傷けた
ぼくと彼は同じ医学部医学科だった。つまりぼくの同級生はみんな彼との共通の友人だった。ぼくが彼のことを忘れたいと必死で願っているときでさえ、彼のことをひとつも聞きたくないときでさえ、友人たちは遠慮なしに彼の噂を楽しんでいた。誰かが密やかに「あいつ最近これで悩んでるらしいぜ」と言って小指を立てているのを、ぼくは心がえぐられそうな思いをして聞いていた。
・ノンケの彼との恋愛が苦しすぎて、ぼくは通常の学生生活が営めなくなっていった
彼との関係で孤独に悩めば悩むほど、ぼくは通常の学生生活がつらくて営めなくなった。本当は死にたいくらいにつらいのに、みんなの前では作り笑顔をしなければならないことが苦しくて、なるべく誰とも一緒にいないようになっていった。いつもは友達とみんなで食べていたお昼ご飯も、帰ってひとりで食べるようになった。誰の話も聞きたくなかったし、もう誰にも語りたくなかった。会話の中で不意に彼の話題が出てきてしまうかと思うと、怖くてたまらなかった。ぼくは次第にこの世で魂を失くし、憂世離れしていった。
ノンケの彼との関係で果てしなく孤独になっているのに、その上彼と関係のない学生生活にまで孤独を持ち込むことは賢明だとは思えなかった。けれどぼくの心はもう人の世の中に耐えられなくなっていった。正常な判断などできないほどに心を病み、全てから心を閉ざしたいと願っていた。まるでこの世界にはもう、ぼくと彼の2人しかいないみたいだった。彼がぼくの目の前から消えてしまえば、ぼくはほんとのほんとのひとりぼっちになってしまうだろう。きっとそうなる日も近く訪れるに違いない。
彼は燃え盛る本能の赴くままにこのまま初めての彼女を作り、童貞を卒業して、今はぼくしか触ったことのない彼の秘密の果実はいずれ女の肉体に夢中になるだろう。それは誰も止めることのできない大いなる流れだった。水が高いところから低いところへ流れて川ができるように、空気が重いところから軽いところへ流れて風が起きるように、まさにそのようにして彼は自らの青い液体を、初めての快楽と共に女の肉体に注ぎ込むだろう。そうなったらぼくはどうなってしまうのだろう。ぼくが尊いと宝物のように抱きしめている彼との日々は、彼の中で忌まわしい同性愛的体験の過ちとして、過去に打ち捨てられるのだろうか。その時にはぼくも、思い出と共に捨てられるのだろうか。そうなったらぼくは、ひとりぼっちになってしまったぼくは、それでもなおこの世界で生きられるのだろうか。
2人きりの時に彼はぼくの目を見てこう言った。「俺は絶対にお前を捨てない。」だけどもう彼の言葉なんて、信じられない。
・大学時代の2番目の恋について
・ぼくの高校時代の初恋について
・同性愛について