大学時代、ノンケの彼とゲイのぼくは会うたびにキスするようになった

 

地図のないぼくたちには、ただ魂の呼ぶ声だけが道しるべだった。

大学時代、ノンケの彼とゲイのぼくは会うたびにキスするようになった

・ノンケとゲイが結ばれるための地図はこの世にない

大学時代、ぼくは同級生の男の子に片思いしていた。ぼくが我慢できずに彼に「好き」と告白すると、彼も次第にぼくのことを「好き」と言って抱きしめてくれるようになった。ぼくたちは会うたびに「大好き」と言って抱きしめ合った。明らかにただの親友の関係ではなくなっていたけれど、ぼくたちは恋人同士ではなかった。これが男と女だったら間違いなく付き合っていると断言できるような状態でも、ぼくたちは男と男だったから、ぼくたちの関係を定義づけるための言葉が見当たらなかった。名付けられることのない不確かな関係の中を、2人は手探りで進んでいった。

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男と女ならばその先へと容易に進むことができるだろう。ありふれた男と女の関係性ならば次には何をすればいいのか、数多くの教えが無造作に世の中に転がっていた。だけどもしも男と男の魂が呼び合って、間違いかもしれないと疑いつつもその恐れを超越し求め合った場合、その先に何が起こるのか予想もつかなかった。美しい春の野に地図もなく迷い込むように、ぼくたちは行くあても道しるべもなく、ただ純粋な本能と魂が指し示す通りの方角へ、時に戸惑いながら時に衝動的に足を踏み入れていった。

 

 

・ぼくたちは言葉や理由を超越した淡い春の世界に身を投じた

ぼくたちが「好き」と呼び合うことは、ぼくにとっては奇跡のように感じられた。他の男の子のほとんどがそうであるように、彼もまた明らかに女性の肉体を求めて止まなかった。彼がぼくに好きだと言ってくれる理由なんて、どこにもなかった。

ぼくたちが強く抱きしめ合うことも、膝枕してくれることも、髪を撫でてくれることも、お互いに甘えることも、手を繋いで眠ることも、まだ誰にも触れられたことのない果実を触って遊ぶことも、すべてこの世にはない尊い幻のように思われた。ぼくたちの行為には理由などなく、ただ魂がそう指し示したからそのままにふるまっているだけだった。言葉や論理で説明できることなんて、何もなかった。

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これがもし男と女だったならばぼくたちは子孫を残すためにこのようにふるまっているのだと、堂々と論理的展開を述べられただろう。けれどぼくたちには「正しさ」や「常識」や「普通」や「多数」のバリアなんてなかった。ぼくたちを守ってくれるどのような理由も存在しなかった。ただぼくたちには言葉なんて必要なかった。言葉や理由を超越した淡い春の世界に身を投じていた。ひとつも理由なんて見当たらなくても、春の外の住人がそれを異常だと裁こうとも、ぼくたちの求め合う鼓動する濡れた果実だけが真実を示していた。魂の呼応が、触れるたびに躍動する波に乗って春の彼方から運ばれてくる音を聞いた。

常識や正しさや多数に守られることができないぼくたちは、むしろそれらを退き傷だらけの歩みを進めよう

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・彼はときどき正常な春の外界へと逃れようともがいていた

確かに魂が求め合っていても、彼はまだ春の世界へとすべての自我を沈めることを恐れて、正常な春の外界へと逃れようともがいた。そのたびにぼくは春の世界にたったひとり取り残されるような孤独感に襲われて泣いた。もはや世界には、ぼくと彼しかいなかった。彼がこの地を去ってしまえば、ぼくはこの世界で再び誰とも出会うことなく一生を終えるだろう。ぼくは彼を愛することで、もはやこの世の人ではなくなっていた。ぼくはただこの世界でたったひとりの彼がぼくのもとから消えてしまわないように、儚く祈り続けた。

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・ゲイのぼくとノンケの彼は会うたびにキスするようになった

ぼくたちには道しるべも地図もなかった。ぼくたちはただ清らかで透明な本能の声を聞き取り、それに従って突き動かされるしかなかった。ぼくがいつもみたいに彼の膝で甘えている時に、ぼくが我慢しきれなくなって彼の首にキスをした。どこまですることが許された行為なのか、どこまでは許されていてどこまでが許されないのか、基準の設けられない未知の世界でぼくはひとつずつ彼に近づくごとに怯えていた。彼はノンケなのに男からキスされることは許されるのか、「好き」だと告白し合っているのだから当然許されてもいいのか、いつも果実を触り合って遊んでいてもキスは許されないのか、何ひとつわからないままただ純粋な衝動に身を任せた。彼はぼくの方を見て笑って髪を撫でてくれた。気づかなったフリをされることも、彼の優しさだと信じられた。

しばらく日が経ってから、彼からぼくにキスをしてくれるようになった。彼はぼくのキスに気づいて、応えて、返してくれた。ぼくのしたキスと彼のしたキスの時の空白には、彼が自らの心の純粋な声を聞くための覚悟の時間が内包されていたのかもしれなかった。誰にもしたことのないものをぼくは彼に与え、誰にもしたことのないものを彼はぼくに与えてくれた。

それからキスをすることがぼくたちの日常になった。言葉も理由も超越した行為が、またひとつ増えただけだった。ぼくたちはさよならするときにはいつも、部屋の玄関で抱きしめ合ってキスをして別れた。もうただの友達だとは言えないほどに、ぼくたちの魂は求め合っていた。

 

 

・未来が見えないことを恐れることはない

ぼくたちは恐れながらも、恐れを超越し少しずつ寄り添った。けれどその先には何があるのか、いつまで経ってもわからないままだった。普通ならば肉体を結び付け、契約を交わし、子孫を残すことで人生の目的は果たされると思い込むことができるだろう。けれどぼくたちの魂が求め合うことで、何が生まれ出ずるのか定かではなかった。なぜ求め合っているのだろう、なぜ抱きしめ合っているのだろう、なぜ好きだと交わし合うのだろう、その先の未来には何があるのだろう、そのように憂うことは愚かなことだと見下した。今、この瞬間に魂が求め合っていることだけが尊く、美しく、重要だった。

どうなるのかわかりもしない未来のことを徒然なるままに憂うより、今、この瞬間に生じている輝きや、熱量や、思いの深さを感じ取ることの方がはるかに生命の真実を指し示していた。真剣に生きる魂にとっては、過去を後悔することも未来を憂うことも、同じくらい愚かしいと感じられる生き様だった。美しく清らかに生きる魂にとっては、今、この瞬間の炎だけがすべてだった。暇だからといってどこにもない時空にまで思いを巡らせて、思い悩み迷妄し心惑わせることが、あらゆる苦しみの始まりだった。ぼくは今だけを慈しんで、ただあなたへと向き合っていた。

 

 

・大学時代の2番目の恋について

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・ぼくの高校時代の初恋について

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・同性愛について

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