クレヨンしんちゃん映画に出てくる多種多様なオカマキャラをまとめてみた

 

クレヨンしんちゃん映画に出てくる多種多様なオカマキャラをまとめてみた

・クレヨンしんちゃんの映画とオカマの密接な歴史

男性の肉体を持ちながら女性のような格好をしたり女性のような喋り方をする人のことを日本語では「オカマ」と呼ぶことがある。これは差別用語にも当たる場合もあるというが、ぼくはこのオカマという言葉にとても親しみを覚えるような気分がする。なぜなら幼い頃によく見ていたクレヨンしんちゃんにオカマという言葉が多用されていたからだ。

ただ単に言葉が出てくるだけではなく時には本物のオカマのキャラクターが登場し、その迫力や存在感に圧倒される思いがした。特にクレヨンしんちゃん初期の映画には必ずと言っていいほどオカマがメインキャラクターとして登場して大活躍していたのでそれを見ていた幼いぼくは、世の中には男なのに女の言葉を喋ったり女の姿をしたり男を好きになったりする人もいるのだということを当たり前のように自然と学び取っていた。この記事ではクレヨンしんちゃんの映画にどのようなオカマキャラが出てきたのかそのユニークな歴史を見ていこう。

 

 

・1993年公開「アクション仮面VSハイグレ魔王」のハイグレ魔王

 

1993年に公開されたクレヨンしんちゃんの最初の映画「アクション仮面VSハイグレ魔王」では、映画のタイトルにも出てくる地球侵略を企む敵のボスキャラ「ハイグレ魔王」がそもそもオカマのキャラクターとなっている。長い歴史を刻むクレヨンしんちゃんの映画の最初の最初から最も重要な敵のキャラクターがオカマであるという事実は、クレヨンしんちゃんというアニメとオカマという存在の親和性の高さを示唆していると言えるだろう。ハイグレ魔王はしんのすけがデレデレして近寄ってしまうほど外見は女性的なキャラクターだが、怒った時は男らしく野太い声でしんのすけに怒鳴りつけるなどやはり男らしい一面を失ってはいない。また正々堂々と剣で戦ったのに負けを認めたがらなかった場面ではアクション仮面に「男らしくないぞ」と言われてしまったが「どういたしまして!私は男じゃないの、オカマ!」と言って開き直り覚醒するシーンは印象的だ。

 

またハイグレ魔王の部下にはTバック男爵というむさ苦しそうなおじさんの敵キャラが出てくるが、彼は北春日部博士によって「目的のためなら手段を選ばない、冷酷非情なホモ」と説明されていた。しかし映画の中で彼の性的指向が重要であると思われるシーンは皆無だった。

 

・1994年公開「ブリブリ王国の秘宝」のニーナとサリー

1994年公開の「ブリブリ王国の秘宝」でも、敵キャラの幹部にニーナとサリーという2人組のオカマガ登場する。両者とも男の声で女の喋り方をする典型的なオカマキャラだが、その外見はかなり異なっていた。サリーは長髪でスカートを着用しており薄いヒゲが生えているものの総じて女性的な外見をしているのに対して、ニーナはスキンヘッドに口髭を蓄えており派手な服装ではあるもののズボンを着用しピアスにサングラスもして外見はイカついおじさんという印象だ。オカマというのはただ単に女の格好をしている男の人のことを指すわけではなく、男の格好をする男の人であっても女言葉を喋りながら男を好きになるという種類のオカマもいるのだということがこの映画を見ているとわかる。つまり一面的なステレオタイプ(固定観念)だけではなく、オカマという人々にも多様性があるということだ。このニーナとサリーは最初はスンノケシ王子を誘拐したり飛行機の中で野原一家を銃撃したりして悪事を働いていたが、最終的にはしんのすけの味方になり協力してピンチを乗り越えたのでどこか憎めない親しみやすいキャラクターとなっている。

 

・1995年公開「雲黒斎の野望」の雪乃

 

1995年公開の「雲黒斎の野望」では、しんのすけ一家が戦国時代にタイムスリップした際に出会った15歳の剣士・吹雪丸が、男の剣士の格好をしているのに実は女だったという設定がなされている。吹雪丸は女なのに男の格好をするという言わばオカマの男女逆バージョンだったが、その理由は弟の雪乃が生まれつき自分を女だと思い込んで武家一家の跡取りにすることができなかったので、仕方なく姉である吹雪丸を男として育てることにしたからというものだった。吹雪丸は当初自分自身を男だと主張し、しんのすけが吹雪丸の股間をまさぐった際にも「タマタマがあった」と言ったことから男に間違いはないと思われたが、温泉で肉体が女であることをしんのすけに発見されてしまうなど、性別が重要なテーマを持っている映画だった。

 

映画の中でしんのすけは雪乃のことを「男のお姉さん」と呼んでいたが、雪乃は外見も声も全てが完全に女らしく描かれておりその他の分かりやすいオカマキャラとは異なった雰囲気を帯びている。生まれつき自分を女だと思い込んでいるという説明からは性同一性障害の気配も感じさせる。

created by Rinker
バンダイナムコフィルムワークス

 

・1996年公開「ヘンダーランドの大冒険」のマカオとジョマ

1996年公開の「ヘンダーランドの大冒険」では、マカオとジョマという2人のオカマ魔女が地球侵略を企むボスキャラとして登場する。2人の名前を逆にして合わせると「オカマ魔女」になると言われている。ハゲ頭のマカオとお団子ヘアのジョマはバレリーナのような奇妙な格好をしており、実際に野原一家とダンス対決をした際にも華麗で美しいバレエダンスを披露している。オカマと呼ばれる人々は芸術的センスに優れていたり美しいものを見極める能力に長けていると思われている節があるが、この映画ではそのような感性が反映されている可能性がある。ヘンダーランド城の頂上にあるステンドグラスにスゲーナスゴイデスのトランプをはめられてしまい最終的には消滅するが、そこへ至るまでの野原一家とマカオとジョマの追いかけっこが面白く見所があり2023年にtwitterでバズるまでの盛り上がりを見せるほどだった。20年以上経っても人々の間で話題になるという時代を超越したポテンシャルの高さと不思議なオカマの魅力がマカオとジョマにはある。

 

・1997年公開「暗黒タマタマ大追跡」の珠由良ブラザーズ

1997年公開の「暗黒タマタマ大追跡」では味方キャラとして「珠由良(たまゆら)ブラザーズ」のローズ、ラベンダー、レモンが登場する。彼らは青森県の「あ、それ山」出身の珠由良族の3兄弟であり、新宿で「スウィングボール」というニューハーフパブを経営している。外見は3人とも坊主頭でまるで僧侶のようであり、しんのすけからも「オカマのお坊さん」と呼ばれていた。ひまわりが大切な玉を飲み込んでしまったことや珠由良族と珠黄泉(たまよみ)族の対決などやたらと玉にまつわる話が多く、映画内では玉=睾丸と見なされて話が展開されている場面も多いが、玉とは百人一首にもあるように命そのものを指す場合もあり、また「たま」という音は日本古代より魂を連想させ、明らかに恐山をモチーフにした青森県の「あ、それ山」が出て来ることからも、何となく神秘的で霊的な雰囲気を帯びた映画となっている(オカマの3人がお坊さんっぽいことも一因?)。自己紹介やなぜ珠黄泉族に玉を渡しては行けないかなどの事情の説明が、3兄弟の歌唱と派手なパフォーマンスによってテンポよく展開されるシーンが面白くて印象だ。また埴輪から解放された魔神のジャークも古代よりずっと玉が抜かれていたことによりオカマ化しており、映画の最後の最後にも何の魔力も残っていないオカマの魔神が登場するというオチとなっていた。

 

・1998年公開「電撃!ブタのヒヅメ大作戦」のアンジェラ青梅

1998年公開の「電撃!ブタのヒヅメ大作戦」では、敵の秘密結社「ブダのヒヅメ」に誘拐され研究させられていた大袋博士の助手として、アンジェラ青梅というオカマキャラが登場する。1956年12月25日長野県波田町生まれの41歳。顔の輪郭がしんのすけとそっくり。大袋博士にそのことを指摘された際に「私の子のわけないでしょう!だって私、12の時からこうなんだもの」と12歳で目覚めたことを自ら暴露している。タイプは野原ひろしのような男で「全身から漂うしょぼくれた雰囲気がいいわ」と気に入っている。

 

・クレヨンしんちゃんのオカマキャラがぼくに教えてくれたもの

このようにクレヨンしんちゃんの初期映画には数多くの多種多様なオカマのメインキャラクターが次々に登場し、まさにオカマという言葉なしにクレヨンしんちゃんの映画は語れないというほどだった。しかもそれぞれのオカマキャラは全てが独特で、特徴的で、奇妙で、力強く、記憶に残りやすい魅力を備えているので忘れたくても到底忘れることができないだろう。

このようなクレヨンしんちゃんの映画を小さな子供たちが見ると、オカマは女々しい、気持ち悪い、男に惚れっぽいなどという差別的な偏見を幼い頃から植え付けられる危険性がある一方で、世の中には色々な種類の人が存在し、男でも男を好きになる人もいるし、男でも女の喋り方や格好をする人もいるし、性別を超えて誰が誰を好きになってもいいのだという広い視点や感受性を持つ手助けになるメリットもあったのではないだろうか。

少なくともぼくは幼い頃クレヨンしんちゃんの映画を見て、オカマという人々に否定的な気持ちや嫌悪感を抱いたことはなかったし、むしろ面白く楽しかったので気に入っていた。おそらくオカマという言葉を初めて知ったし、この世の中にはオカマという存在や男でも男が好きになる人々がいるということを覚えておこうという学びになったと自負している。現在はオカマという言葉は差別用語に当たるし教育的にも悪いという理由なのか、クレヨンしんちゃんの映画にオカマは出てこないようだ。しかしぼくはクレヨンしんちゃんの映画のオカマに、世界は様々な種類の人々で成り立っているのだから自分とは異なるどのような人々とも思いやりを持って付き合っていかなければならないという、寛容な情操を育まれたような気がしてならない。

 

 

ブログランキング・にほんブログ村へ
created by Rinker
バンダイナムコフィルムワークス

友情というより同性愛的?!しんのすけと風間君はディープキスするほど仲良しだった

ぼくがアニメ・クレヨンしんちゃんで覚えた難しいことわざ3選

クレヨンしんちゃんの「オラはにんきもの」が指し示す絶対的万能感を持つ少年とその幸福について