誰にも話さなかった初恋を誇りに思おう。
ゲイからノンケへの初恋は誰にも言えない分、純度の高い宝石となって残る
目次
・ぼくは高校2年生の時、同じクラスの男の子を好きになった
ぼくの初恋は高校2年生の時、同級生の同じクラスの男の子を好きになった。頭を撫でられたり、「かわいい」って言われたり、2人きりのバスの中で膝枕されたり、他にはない2人だけの世界を築き上げられることで、自然と心惹かれていった。だけど彼は普通に女の子を好きになる男の子、異性愛者だということはわかっていたから、ぼくの初恋は実るはずもなかった。
ぼくは男で、男を好きになったわけだから、ぼくは「同性愛者」になるらしかった。だけど自分がどこに分類されるかとか、世の中でどう呼ばれているかなんてどうでもよかった。ぼくの中にあったのは、彼を大好きだという気持ちだけだった。
はじめから叶わないと分かり切っている恋をしてしまうなんて意味がわからないし、この気持ちを止めたかったけれど、恋をしたのは初めてだから終わり方がわからなかった。恋というものは合理的じゃないし、計算もできない、論理を超越したところに位置する野生の感性のようだった。まるで地震が起こったり大雨に降り注がれるように、まさにそのように天災に似た現象として、初恋というものに心を支配された。
・もしもぼくの恋を誰かに話せたならば
ぼくは男なのに同級生の男子を好きになってしまったから、誰にも相談できずにひとりで悩んだり泣いたりしているしかなかった。そんな時に、「普通」と呼ばれる異性愛者の恋愛がうらやましく思えた。男が女を好きになったり、女が男を好きになることは自然だと教えられているから、隠すことなく話題にしたり相談したりすることが可能らしかった。
恋の嬉しいことも、悲しいことも、悩んでいることも、誰かと共有できたらどんなに楽だろうと、ひとりきりで悩むことしかできないぼくは感じていた。きっと誰かに自然と話せるような恋をしたならば、誰かと自分の心の中を共有し打ち解けることができたなら、ぼくはこんなに孤独感を感じることはないのだろうと思うと悔しかった。
どんなつらい悩みも苦しみも、信頼できる誰かに相談し共有できたならたちどころに解決してしまうのだろうとぼくは信じていた。自分がそのようにすることができなかった分、ただ勝手に想像力を働かせて、きっとそうに違いないと思い込んでいたんだ。
・誰も本当のぼくを知らない
初恋でつらいことがあっても誰にも言うことができずに、ひとりで悩んでいたし、ひとりで泣いていた。いつしか心がおかしくなって、教室の彼の姿を見るのがつらいから学校に行かない日ができたり、悲しみに暮れる日々が続いた。自分でなんとかするしかないから、いっぱい考えて、でもどうしようもなくて、何もできなくて、どうしたらいいのかわからないままで1日は終わった。最後にはもうただ運命を受け入れて、注がれるままに孤独や悲しみを享受して、自分の無力さを思い知らされたり、虚無感に打ちひしがれたりした。
こんなに苦しんでいるのに、こんなに泣いているのに、こんなにもがいているのに、周りの誰もがぼくの恋を知らないことが信じられない思いがした。嵐はただぼくの中だけで閉じ込められて起こっていた。どんなに心が傷つけられても、どんなに心が血を流していても、心だから誰にも見えなかった。見えている世界と本当の世界は全然違うのだと、ぼくはぼくを生きて思った。友達は誰もがぼくのことを知っていると思っているけれど、本当のぼくを、誰ひとり知らない。
・苦悩を誰かに話せば楽になれるというのはまやかしだ
初恋が終わって、大人になって思うことは、初恋を誰にも言わなくてよかったということだった。高校生のぼくは誰にも言えないことや相談できないことで、心が引き裂かれそうになって苦しんでいたけれど、もしかしたら誰かに言ったところで何も変わらなかったのかもしれない。
悲しいことやつらいことを、誰かに聞いてもらうことで楽になれるなんて本当だろうか。確かに信頼できる誰かに話せれば心がスッキリして、一時的には精神が安定するかもしれないけれど、悲しみやつらさの根源が自分の内部や深部に潜んでいる限り、結局また悲しみやつらさは後から後から無尽蔵に押し寄せて、やがてあなたの心を再び満たすだろう。
誰かに話せば楽になれる現象なんて、一時的で浅はかなまやかしだ。本当に自分が自らの根源から押し寄せる悲しみやつらさを断ち切りたいというのなら、それができるのは決して他人ではなく、自分自身だけだ。自分自身の根源に根ざす苦しみは、自分自身によってしか救済できない。他人に語って聞かせたり、他人のアドバイスの通りにすれば解決するような浅はかな悩みなら、最初からそんなに苦悩しないだろう。あなたの根源に根ざす苦しみ、どうしようもない運命から訪れる悲しみは、あなた自身によってしか取り除かれはしない。
「自分自身の運命から来る苦しみは、自分自身によってしか救われない」ということがわかったのも、ぼくが初恋を誰にも話すことができずに、ぼく自身がたったひとりで孤独に運命に立ち向かった結果に他ならない。この悟りはこれから生きていく上でも重要な示唆となることだろう。抑えきれない燃えるような初恋の思いを自分の中だけで抱え込むことで、ぼくは自分の意識が拡張していくのを感じた。きっとこのどうしようもない運命的な苦しみから逃れるために、無意識でありとあらゆる自分の可能性に探りを入れていたのだろう。自分自身の内部だけに膨大な熱量の恋心を蓄えたことで切り開かれたあらゆる新しき通路は、やがて豊かな情緒となってぼく自身をどこまでも育て始める。
・誰にも言えなかった初恋は純度の高い宝石となる
初恋を誰にも言えなかったことは、初恋を自分だけの小さな宝箱に大切に閉まっておいたことに似ている。誰にも見せていないから、誰にも穢されることなく、純粋なままで透明なままで、初恋の思いは保存され続けている。
もしも誰かに話していたならば、他人同士で噂されてたくさん穢されてしまっていたことだろう。人の口に戸は立てられぬ。遠慮もなくあることないこと言いふらし、自分たちが楽しむためだけに他人の噂を利用するというのは人の世の常だ。大切な恋を誰かに話してしまっていたならば、きっと跡形もなく穢されて輝きは戻ってこなかっただろう。
誰にも話せなかったからこそ苦しかったけれど、誰にも話さなかったことを今は誇りに思おう。美しいものを美しいままで護り抜いた、どんなに悲しくても投げ捨てなかった、あの頃の自分を誇りに思おう。
・ぼくの高校時代の初恋について
・同性愛について
・大学時代のぼくの2番目の恋について