好きな気持ちはたとえ離れても、簡単には消えない。
ノンケへの初恋と片思いの終わり!好きな人と完全に離れればすぐに忘れられるというのは本当か?
目次
・ぼくの初恋は高校2年生だった
高校2年生の時、ぼくは同じクラスの同級生の男の子を好きになった。それがぼくの初恋だった。相手は当然異性愛者で、叶わない初恋だということはわかっていたけれど、好きな気持ちを止められなかった。初恋は荒れ狂う嵐のようにぼくの心を支配し、ぼくの恋心なのにぼく自身それをコントロールすることが全くできなかった。人を好きになることは素晴らしいことだと教えられてきたのに、ぼくは初めて人を好きになって自分の運命と絶望を知った。
高2、高3と彼と同じクラスだったことがあまりにつらくて、みんなの前では明るく普通にふるまって、唯一ひとりになれるお風呂の中で毎日泣いていた。そして学校にも行きにくくなって、休みがちになった。高校を卒業したときには、これでもう彼と会わなくてもいいんだと思えることが嬉しかった。彼のいない世界へと旅立てることが救いに思えた。心の中で無遠慮に荒れ狂う恋の嵐でさえ、彼と会わなくなればすぐにおさまって消失するだろう、そんな風に固く信じて止まなかった。
ぼくも彼も大学受験に失敗して浪人することになった。高校時代に、仲良くしたり喧嘩したりを繰り返して、結局高3の最後の方にはまたずっと一緒にいたけれど、受験を境に彼から連絡は返ってこなくなった。だけどぼくは初恋の嵐から解放されたかったから、メールの返信が返って来なくなってちょうどよかったのかもしれない。もう二度と会わなくていいんだという喜びと、大好きな人にもう二度と会えないというさみしさが心の中で混在し、思春期の情緒が不安定になったまま、ぼくは大学受験合格のため予備校へと通い始めた。
・浪人生活は全くつらくなかった
浪人生活は全くつらくなかった。浪人がつらいと言われる世間の噂は嘘だと思い知った。ぼくは勉強が好きだったから、勉強だけしていればいい生活なんてむしろ幸福だった。勉強がつらいなんて言っている人の気が知れなかった。人生には未だに答えのない様々な困難な難問がたくさん待ち構えているというのに、答えが既に決まっていてさらにその解き方を詳しく教えてくれる受験勉強ごときが苦痛であるはずがなかった。むしろ受験勉強を通して様々な知識や解決方法を学び取り、これからぼくの人生に訪れる「好きな人には決して愛されない」という絶望的な運命の未来を癒やす糸口を見出さなければならないと願っていた。そのような点においても、受験勉強はやりがいのある心安らげる仕事だった。
・好きな人と完全に切り離されても、恋の嵐は消えない
好きな人から遠く離れれば、好きな人のことをすぐに忘れられると思っていたのは完全な間違いだった。好きな人から遠く離れ、好きな人が全くいない新しい生活を送っても、ぼくの心の中にはまだ恋の嵐が残存し続け、ぼくを支配し続けていた。彼がぼくの初恋だったから、恋の嵐がどのような性質を持ったものか全くわからなかったが、恋の嵐は、彼がいなくなったからと簡単にぼくを許してはくれなかった。ぼくは新しい浪人生活においても、まだ恋の嵐に支配され続けていた。
繊細な思春期の恋心を持ったぼくは、ひとりで歌を聞いていてもすぐに号泣するようになってしまうほど、情緒が不安定になっていた。予備校の近くのTSUTAYAで借りた大塚愛のCDを部屋の中でひとり聞いては、涙が枯れるまで泣くような生活が続いた。涙が枯れば恋の嵐が、心から消えてどこかへいなくなってくれないかと密かに望んでいたが、どんなに泣き疲れても次の日には恋の嵐は勢いを復活させ、泣いても泣いても衰えることはなかった。ぼくは大塚愛の歌を聞いて、本当に一生分くらい泣いたんじゃないかと思うくらいに泣いた。
・大塚愛「甘えんぼ」
どんな上着よりもあなたが
いちばんあったかいよ
・大塚愛「プラネタリウム」
夕月夜顔出す 消えてく子供の声
遠く遠く この空のどこかに君はいるんだろう
夏の終わりに2人で抜け出した
この公園で見つけたあの星座 何だか覚えてる会えなくても記憶を辿って
同じ幸せを見たいんだ
あの香りと共に花火がパッと開く行きたいよ君のところへ
今すぐ駆け出して行きたいよ
真っ暗で何も見えない
怖くても大丈夫数えきれない星空が
今もすぐここにあるんだよ
泣かないよ昔 君と見た
綺麗な空だったから
・大塚愛「大好きだよ。」
あなたが恋しくて 恋しくて
これ以上どうしようもなくて
あなたが恋しくて 恋しくて
ずっと ずっと ずっと ずっと ずっと大好きだよ
・さようなら、ぼくは沖縄へ行きます
ぼくは大阪の予備校の医学部コースに通っていた。周りのみんなは関西の医学部を目指していたけれど、ぼくの魂ははるか遠くへ旅立つことを望んでいた。幸い医学部は全国各地にあるので、ぼくは沖縄の大学を受験した。どうして友達のいる関西にしなかったのか、どうして誰も知り合いのいない南の島へ旅立ちたいと願ったのか、それは論理的に説明できない直感だった。旅するように生きたいと願う旅の炎が、この時点で既に発動していたのかもしれない。ぼくは誰もいない島へと旅立って、何者でもない透明な人になりたかったのかもしれない。もう人を愛さない国へ、魂を運びたかったのかもしれない。
ぼくは沖縄の医学部に合格し、受験は終わった。受験が終わると同時に、1年間連絡がなかった初恋の彼から電話が来た。彼も大阪の大学に合格したことを、誰よりも先にぼくに電話で伝えてくれた。その後一度だけ会って、ぼくは沖縄へ旅立つことを告げた。もしもぼくが関西に残ったのなら、大学生になってもまたいつもみたいに友達で会えたのかもしれないね。だけどそうならないように、ぼくは大いなる力によって沖縄を選び取らされたのかもしれなかった。
ぼくは彼に2回「好きだよ」って告げたから、彼はきっとぼくの気持ちに気づいていた。それなのにずっと一緒にいてくれて、こんな運命を背負っていることを受け入れて、最後に会ってくれてありがとう。きっともう会うこともないね。あなたを愛したことだけが、ぼくの高校時代の記憶になった。さようなら、ぼくはあなたのいない沖縄へ行きます。
・ぼくの高校時代の初恋について
・大学時代の2番目の恋について
・同性愛について