ぼくが医師国家試験に不合格になった理由と原因を自分なりに考察してみた
目次
・ぼくはすっかり医学に興味をなくしてしまった
男を好きになる男に生まれついた自分自身の運命と、大学時代の恋の経験から、ぼくは魂が死んでしまったような感覚に陥り、自分が生きているのか死んでいるのかさえわからなくなった。絶望の中にあってもなんとか大学の医学部の勉強を、心を無にしてこなし、本来の6年間で卒業した。しかし医学を勉強すれば勉強するほど、ぼくは虚しい気分に襲われた。人を病や死から救う方法が羅列されている医学であっても、ぼくの死んでしまった魂をどのように救い出せばいいのかを一切教えてはくれなかった。どうして他の人の病気を治すことは書かれているのに、ぼくの魂を治す方法は書かれていないのだろう。医学は無知だし、無力だと思った。ぼくはすっかり医学に興味をなくしてしまった。
・医師国家試験は独自の対策を取らなければならない
医学生には数々の授業や実習やレポートや試験をクリアして、6年間で卒業するという他にもっと大切な課題があった。それは卒業と同時に行われる医師国家試験に合格することだ。医師国家試験に合格しなければ、いくら医学部を卒業していたって医者にはなれないのだ。当然医学生は、大学を卒業するための大学の試験勉強と並立して、同時に医師国家試験の勉強も必死に行なっていた。医師国家試験は大学それぞれの独自の試験とは異なり、全国で行われる共通の試験なので、コツや覚えるべきことが大学の試験とは全く違っており、医学生は医師国家試験に特化した勉強の対策を取らなければならないのだった。
・労働と、自らの魂を救い出すために生きることについて
しかしぼくは全く医師国家試験の勉強をしていなかった。もはや医師国家試験に全く興味を持てなかったし、そんなことをしている暇があったらぼくは自分の魂を救い出すための学びを深めたかった。確かに医師国家試験に合格しなければ医者になれず、医学生のぼくは金を稼げなくなるだろう。しかし人間は労働して金を稼ぐために生まれてきたのだろうか。労働とは他人の役に立つことをして、その代わりにお金をもらって生きていくという人間社会の仕組みだ。しかし他人の役に立つなんて、まず自分自身が救われてからの話だ。自分の魂が虚ろで死んだような状態でいるのに、自分という土台がしっかりしないままで、それを基盤として他人の役に立つことなどできない。
ぼくたちは人間は労働すべきだと考えている。それはつまり他人の役に立つこと(=労働)に人生の時間の大半を使いながら生きていくべきだということを意味する。しかしそれはよく考えれば不思議なことではないだろうか。自分に与えられた人生の時間を自分のために使うことがほとんど許されずに、若くて健康で美しく何でもできる時代の大半でさえ他人の役に立つこと(=労働)に時間を奪われるなんて、どう考えても人間社会に都合のいいおかしな洗脳が働いて個人の幸福を犠牲にしているとしか思えない。
ぼくたちはぼくたち自身のために生きてはいけないのだろうか。ぼくはぼくのために生きてはならないのだろうか。「ぼくはあなたのために生きていく」と誓えば世間では賞賛されるのに、「ぼくはぼくのために生きていく」と誓えば世間では見下されるのはおかしな風潮だ。「あなた」だって「ぼく」だって変わらない人間の1人であるのに、前者も後者も1人の人を必死に守り抜いていくと決断しているという点では何も違いはありはしないのに、人々は前者を優れていると言い、後者を蔑む。
ぼくには、ぼくの魂を救い出さなければならないという確かな使命があった。ぼくはまず、ぼく自身のために生きなければならないのだ。医者として他人を救ったり導いたりするなら、ぼくの魂を救い出した後にしかできないことだった。自分の魂さえ救われていないのに、他人を救うことなんてできない。ぼくは自分の魂を救い出すための道を必死に見定めながら生き抜き、どう考えても魂の救済や再生に全く役に立ちそうもない無力な医学や医師国家試験のことになどすっかり興味をなくしてしまった。
・ぼくは医師国家試験の浪人をすることになった
医師国家試験の勉強をしないなんて、医学生としてあるまじき行為だし、例外中の例外だった。他の医学生はビデオ講座や問題集などを通して、医師国家試験専用の医師国家試験に特化した勉強を、みんなと同じようにきちんとこなしていた。医師国家試験でも医学部の大学の試験でもそうだが、重要なことはみんなと同じようなことをみんなと同じようにこなすということだった。
みんなと同じようにしなければ生きられないと教える医学の勉強の風習も、ぼくの心を知らず知らずのうちに傷つけていた。みんなと同じにならなければ上手に生きられないなんてとても悲しいことだと思った。それはぼくが男を好きになる男として生まれてきた珍しい運命を冷たく踏みつけているような気がした。そして同性愛という運命に身を任せ自らの魂が滅ぼされてしまったことを、ぼくは永遠に忘れることができなかった。
ぼくはただ、医学がぼくの魂を救い出しはしないだろうという直感にただ従って生きるしかなかった。当然のように医師国家試験は不合格となり、ぼくは医師国家試験の浪人をすることになった。
・大学時代のぼくの2番目の恋について