十分辛くて人は幸せに!中島みゆきANN最終回を徹底分析すればするほど彼女の音楽を信頼せずにはいられない

 

十分辛くて人は幸せに!中島みゆきANN最終回を徹底分析すればするほど彼女の音楽を信頼せずにはいられない

・1987年3月30日「中島みゆきのオールナイトニッポン」は最終回を迎えた

1979年4月2日から約8年間続いた大人気深夜ラジオ「中島みゆきのオールナイトニッポン」は、1987年3月30日に最終回を迎えた。「中島みゆきのオールナイトニッポン」がこの日に最終回を迎えるということは、中島みゆき自身が1987年2月23日の同番組の放送中に発表した。なぜ彼女は大人気だった「中島みゆきのオールナイトニッポン」を辞めてしまうことになったのか。その理由は「中島みゆきのオールナイトニッポン」の最終回で、彼女自身の口から説明されている。彼女が「中島みゆきのオールナイトニッポン」を辞めようと決意した理由は以下の通りだった。

 

・中島みゆき「私要領良くないんだなぁ」

中島みゆき「DJっていうジャンルの仕事を自分でやり尽くしたとか、極めたとか、胸張って言えずに辞めちゃうというのはみっともないんだけど

たとえば同時性とかニュース性とかいうものとしての生放送っていうことの可能性も私はもっと追求してみたいと思うし

DJどうせやるならもっともっとのめり込んでやりたいと思うわけなんだよね

でも生放送の時間だって言って、それじゃレコーディングを適当なとこでまぁいっかとかってOK出しちゃうようなことは、とっても嫌だしね

もしかしたらこの先、音作ったりすることで旅に行ってるとか、日本にいないということもちょくちょくあり得るかもとすると、生放送やってるようなふりして録音流すっていうのも、嫌だしね

やっぱり私要領良くないんだなぁと思うだんけど、いくつものこと一緒にテキパキやりこなせないんだわぁ

そんで独身なのかなぁ…とかいやまぁそれはこっちへ置いといて(笑)

それでじーっと考えちゃって

1日のたった24時間っていうこの限られた時間をね、どうやったら配分できるだろうかなぁって考えたんだよね

そしたらやっぱり時間を惜しむことなく音楽に使いたいなって、そう願ったんだよね

で、番組を降りさせてもらうというわがまま言わせてもらうことになっちゃったんだけども」

 

・中島みゆきがオールナイトニッポンを辞めようと決断した理由

彼女自身から語られる最終回のこの説明を聞いていると、中島みゆきがこれから先の自分の人生の時間を惜しみなく音楽に費やしたいと願ったことこそが、大人気だった「中島みゆきのオールナイトニッポン」を辞めようと決断した最大の理由だったことがわかる。それくらい音楽というものが彼女の中で極めて大きな存在であり、安定した人気を誇っていたディスクジョッキーの仕事を投げ打ってでも追究し実現したい音楽の形があったことが伺える。続けて「中島みゆきのオールナイトニッポン」の最終回で彼女は次のように語っている。

 

・中島みゆき「私精一杯、音楽してくからね」

中島みゆき「これからこういう話す場所がなくなるっていうと、色々誤解されることも出てくるかもしれないとは思う

つまんない記事とかなんとか論っていうのはなんぼでも出てくるから

そういうもんで誤解されるようなことがあったとしても、弁明できる場所っていうのはもうないんだなってそう思うのね

それでも私は、言い訳っていうのはもういいやって思うの

言い訳はね、もうしなくていいって、こう思うんだよ

どの道私は、私のままでいくっきゃないって まぁかっこよすぎるかもしれないかも

私のままでいくっきゃないって、そう思わない?

私はそう思ったわけ

私がこれからこうやってディスクジョッキーやってなくて

どこからか色々噂を聞いたりとかするかもしれない

でも私、精一杯レコード作っていくからね、コンサートもやってくからね、音楽してくからね

 

・中島みゆきが番組終了後、精一杯音楽をやっていくというのは本当だったのか

この語りからも、中島みゆきがこれまでよりも一層音楽に集中して、真剣に音楽に向き合っていこうと決意していることがひしひしと伝わってくる。自分が得意だったDJという仕事を失うことで犠牲にしても、自分の人生を音楽に賭けるしかないのだという迷いのない信念のようなものが感じられる。

ぼくは「中島みゆきのオールナイトニッポン」の最終回当時は生まれてすらいなかったので、当時の雰囲気や様子を知る由もないが、1987年といえば中島みゆきの歴史の中では”ご乱心時代”と位置付けられ、自らの音楽性を探し求めて試行錯誤していた時代だったのではないだろうか。実際にその年代のオリジナルアルバム「miss M」や「36.5℃」を聞いてみれば、それ以前の彼女の雰囲気とは全く違った独特なサウンドやアレンジが認められる。

今でこそ中島みゆきのご乱心時代は瀬尾一三とタッグを組むことにより終わりを告げることがわかっているが、1987年当時のファンはこれまでのフォークソング的・ニューミュージック的な中島みゆきが消えてなくなりどこへ向かってしまうのかわからずに戸惑いを隠せないという部分もあったのではないだろうか。本当に中島みゆきは音楽を続けていくのだろうか、本人は音楽に集中するから辞めたいとか言っているけれど実は迷走して売上も落ちてきて人気もなくなってきたから辞めさせられるだけではないのかと疑いを持った人々も少しくらいいたのではないだろうか。

 

・中島みゆきは最終回の言葉通り、その後音楽活動を精力的に続けている

しかし「中島みゆきのオールナイトニッポン」が終了した後の時代にこの世に生まれてきたぼくからすると、「中島みゆきのオールナイトニッポン」の最終回を聞くことによって、逆に中島みゆきは何て信頼できる人間なのだろうと感心せざるを得ない。なぜなら「中島みゆきのオールナイトニッポン」終了後から彼女は常に音楽と向き合い走り続けてきたということが如実にわかってしまうからだ。それは「中島みゆきのオールナイトニッポン」後の彼女の精力的な音楽活動の歴史を辿れば一目瞭然である。彼女は本当に「中島みゆきのオールナイトニッポン」で言った通りに、絶え間なく自分の音楽を貫き通し続けてきたのだ。

たとえば「中島みゆきのオールナイトニッポン」終了後1989年から、後の彼女のライフワークとなる「夜会」が始まった。中島みゆきは夜会を「言葉の実験劇場」と位置づけ、脚本・作詞・作曲・歌・主演を全て自分自身がこなすという世界でも類例を見ない舞台表現を実現させた。最初はほぼ既存曲のみで構成されていた夜会もやがてVol.7「2/2」からは新曲ばかりの舞台となり、その人並みはずれた創造力には圧倒されてしまう。夜会ばかりではなくオリジナルアルバムも出し、コンサートも続け、最近ではまた新たな試みとして「夜会工場」まで始めてしまった。一体中島みゆきはどこまで音楽と走り続けるのだろうか。

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中島みゆきと同時代に活躍した人の中で、今でも彼女ほど活動できているアーティストが果たしてどれだけいるのだろうか。あるアーティストは創造力がなくなって新曲を出さなくなってしまった、またあるアーティストは声が出なくなって十分なパフォーマンスができなくなってしまった、またあるアーティストは病気で活動を停止してしまった…中島みゆきほど時代を超越して本当の意味で活躍できているアーティストなんて実はいないのではないだろうか。

自分が応援しているアーティストが衰えていくことは誰だって悲しい。しかし人間は誰しも衰えていくものなので、結局そのスピードが速いか遅いかだけの違いである。そしてなるべくその衰えが遅ければ、違和感を抱かずに心から応援できる年月が長くなるのでラッキーだ。しかしこのアーティストは本当にいつまでも活動できるのだろうか、このアーティストは長く歌を書き続けられるのだろか、このアーティストはずっと声が出るだろうか、このアーティストは末長く健康でいられるだろうか…そんなことをあらかじめ正確に予測できる可能性は低い。

つまり中島みゆきのファンはこんなに長い間精力的に活動してくれて、思いがけずラッキーだったということだ。それはもちろん重い病気にかからなかったなど運に左右される場合もあっただろうが、ぼくの中で中島みゆきの活躍はとても必然的だったように感じられる。「中島みゆきのオールナイトニッポン」の最終回から伝わってくる迷いのない覚悟と疑いのない決意、そして純粋な音楽に対する情熱が彼女を突き動かしていることに間違いはないようだ。

彼女が「中島みゆきのオールナイトニッポン」で自ら語ったように、その後現在の2023年に至るまで「私精一杯レコード作っていくからね、コンサートもやってくからね、音楽してくからね」という言葉通りの人生を歩み続けてくれている。ファンにとってこれ以上に嬉しいことがあるだろうか。何て自らの情熱に嘘偽りのない人だろう、何て自らの直感に正直な人なのだろう。ぼくが中島みゆきという人間の音楽を信頼してしまうのは、その人生を通して自らの言葉や情熱や直感を貫き続けているという点に理由がある。

 

・中島みゆき「十分辛くて初めて人は、幸せになるんです」

「中島みゆきのオールナイトニッポン」は次のような言葉で幕を閉じた。

 

中島みゆき「じゃあ本当に、いっぱい、ありがとう

中島みゆきは、今夜で、ディスクジョッキーを、中退します

これからもあなたの望んでいる通りになってとは祈れないけれども

あなたにとって一番幸せな方へ行くようにと祈っています

幸せという字は、辛いという字の上についてるちょっぴりの点を十という字に変えると幸せになるんです

十分辛くて初めて人は、幸せになるんです

挫けないで頑張ってください

じゃあ今から数えて10秒後に、私は音楽に走ります

10、9、8、7、6、5、4、3、2、1…

…こんばんは、中島みゆきです」

 

・自分の言った言葉に誠実な中島みゆき

この10秒を数えた後、2023年の今に至るまで本当に音楽に走り続けてくれているなんて実に感動的ではないだろうか。「これからもあなたの望んでいる通りになってとは祈れないけれども、あなたにとって一番幸せな方へ行くようにと祈っています」「十分辛くて初めて人は、幸せになるんです」など、単純な聞き齧りの励ましではない彼女なりの哲学が垣間見える言葉たちが心に染みる。

 

・なぜ番組の最後の最後に「こんばんは、中島みゆきです」と言ったのか

なぜよりによって番組の最後の最後に、彼女は「さようなら」ではなく「こんばんは、中島みゆきです」と言ったのだろうか。

これは完全にぼく個人の感想となってしまうが、終わりは始まりなのだという、何かが終わってしまっても同時にまた何かが始まりゆくのだという彼女なりの”輪廻転生の思想”を言葉によって表現したのではないだろうか。「時代」などの楽曲もしくは彼女のライフワーク「夜会」を鑑賞すれば、彼女の中の最も重要な思想に輪廻転生の要素が潜んでいることは誰から見ても明らかである。

「こんばんは、中島みゆきです」と言われてしまえば、これから何かラジオ番組が始まるのではないかと期待させられてしまう。「こんばんは、中島みゆきです」は始まりの合図だ。この始まりの合図を「中島みゆきのオールナイトニッポン」の最終回の最後の最後で言い放つことによって、始まりと終わりは繋がり、始まりと終わりは同じものとなり、そしてたとえ終わってしまったとしてもまた円環を描きながら物語は続いていく。実際にそのような禅的・東洋的思想は夜会「24時着0時発」の中でも如実に表現されているし、ライヴアルバム「歌暦」でも最後の最後に「こんばんは、中島です」と言って終わることから彼女の中で明らかに意図された重要な演出なのだろう。

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・「中島みゆきのオールナイトニッポン」最後の楽曲が「白鳥たちの歌が聴こえる」だった理由

この「こんばんは、中島みゆきです」という言葉の後、楽曲「白鳥たちの歌が聴こえる」が流れてついに8年間続いた「中島みゆきのオールナイトニッポン」は終了してしまう。なぜ最後の最後の楽曲があまり知られていないマイナー曲である「白鳥たちの歌が聴こえる」だったのだろうか。これもぼく自身の個人的な感想となってしまうが、次の歌詞に何か理由があったのではないかと感じられた。

優しさだけしかあげられるものがない
こんな最後の夜というのに

 

(この記事は著作権法第321項に則った適法な歌詞の引用をしていることを確認済みです。)

 

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