Nobody Is Rightと中島みゆきが歌詞を間違うとき

 

Nobody Is Rightと中島みゆきが歌詞を間違うとき

・よく歌詞を間違う中島みゆき
・中島みゆきがわざと歌詞を変えて歌うとき
・正しく歌わないからこそ余計に伝わる言葉たち

・よく歌詞を間違う中島みゆき

中島みゆきがよく歌詞を間違うというのは、ファンの間ではよく知れ渡っており、また彼女自身もそれをネタにしてコンサートではよく笑いをとっている。笑いをとるほど余裕があるので、実はそんなに間違わないんじゃないかと思われるかもしれないが、これが本当によく間違うのだ。

しかしそれをファンも彼女も楽しんでいる節があるのは、微笑ましい限りである。しかし、まさかあの天下の紅白歌合戦で「地上の星」の歌詞を間違うとは、そしてそれがその年の紅白歌合戦の最高視聴率を叩き出すとは、ノストラダムスでも予言できなかったであろう。

以前大阪のフェスティバルホールで中島みゆきコンサートの縁会の追加公演があり、ぼくはそれに参加した。そのコンサートは、特別に「愛詞」を提供した中島美嘉が乱入し、共に「愛詞」を歌うという前代未聞のステージを見ることができ、極めて幸運だったと記憶している。この際も中島みゆきは「地上の星」で歌詞を間違い、「あの天下の紅白歌合戦で間違えた歌詞をここでも間違えてしまった」と言っては観客の大爆笑をさらっていた。

 

福山雅治のラジオに出た際には、歌詞をよく間違うことについて「聞く人にとっては歌詞はひとつだが、作る方からするといくつも作ってあってその中のひとつを世に送り出しているに過ぎない。だからたくさんある歌詞の中のどれが正解かわからなくなって歌詞を間違える」というような主旨のことを福山雅治が言うと、中島みゆきは「そうだーーー!!!!!」と力強く同意していたのが印象的だ。歌詞を間違うのにも、創造者にしか分かり得ない事情があるようだ。

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・中島みゆきが歌詞を変えて歌うとき

中島みゆきが歌詞を間違うのは大抵の場合はただのアクシデントだが、わざと意図的に歌詞を変えて歌うことがある。強く記憶に残っているのは前回も紹介した中島みゆきコンサート2010のことだ。

このコンサートの中でも最もメッセージが強かったNobody Is Rightの場面では、彼女は次のように歌詞を変えている。

“争う人は正しさを説く
正しさゆえの争いを説く
その正しさは気分がいいか
正しさの勝利が気分いいんじゃないのか”

が本来の歌詞であり、意図的な変更後は以下の通りである。

“争う人は正しさを説く
正しさゆえの戦争を説く
その正しさは気分がいいか
正しさの勝利が気分いいんじゃないのか”

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・正しく歌わないからこそ余計に伝わる言葉たち

歌詞を変えると、本来の歌詞を知っている人々にとっては、その部分だけが鮮烈に記憶として残る。彼女はおそらくその人間の習性を利用して、その部分を印象付けることを狙ったのだろう。彼女は“争い”を“戦争”と変えたことを、聞く人に強く記憶してほしかったのだ。

争い戦争という言葉は、似ているようで印象が違う。

争いというと、些細な喧嘩から、大きな国同士の戦まで幅広いイメージを思い浮かべることができるが、戦争という言葉が多くの人々に与えるのは、血が流れる、殺し合いの悲惨な印象だろう。戦争という言葉の方が、争いという言葉よりも限定的で、狭小に、残酷さを語りかける。

数学的にいうと戦争⊆争いと表現できるであろう。しかも政治的な色味も帯びる危険性さえある戦争という言葉を使用したことは、彼女なりの覚悟が感じられるのではないか。あるいはその瞬間だけの、記録に決して残らないはずの、生のコンサートであるからこそ、ハッとさせられるような戦争という言葉を歌として語ったのかもしれない。

 

これ以降の重要な作品、夜会の「夜会VOL.18「橋の下のアルカディア」」や「中島みゆきConcert「一会」(いちえ)2015~2016 」などでも、最も核となる場面に、争いを始めてしまう人間への警告は確かに感じられ、彼女の最近の傾向であるともとらえられる。

言葉を正しく歌うからこそ伝わるものばかりではない。言葉を変えて歌うからこそ、より鮮烈に人々にメッセージを訴えかけることができる場合もあることを、彼女は教えてくれている。

言葉を放つから伝わること。言葉に出さないからこそ伝わること。言葉を変えたからこそ強く伝わること。言葉に対する挑戦を決してやめることのない彼女の積極的な姿勢は、尊ささえ感じさせるほどである。

 

 

 

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