「地上の星」の具体的発展!中島みゆき「愛だけを残せ」は人生の目的を高らかに歌うキリスト教的楽曲

 

名さえも残さず、命の証に、愛だけを残せ。

「地上の星」の具体的発展!中島みゆき「愛だけを残せ」は人生の目的を高らかに歌うキリスト教的楽曲

・「地上の星」は名前を残すことは重要ではないことを教えてくれる

中島みゆきの21世紀ベストアルバム「前途」には、収録曲全ての解説が中島みゆき自身によって書かれている。「地上の星」に関する記述は以下の通りだ。

”「無名の人々の光を当ててください」というのがNHK「プロジェクトX」からの唯一の注文でした。細かい字でビッシリと綴られた分厚い企画書には、懸命に生きた無名の人々の記録。私が己れの無知を恥じながら、その記録に目を凝らして気づいたのは、この人々に「光を当てる」なんて出来ないということでした。光を放っているのは、まさに、この人々自身だったからです。心から敬意を込めて、「地上の星」と名付けました”

歴史の教科書に名前なんて残っていなくても、懸命に自らのすべきことを成し遂げて人々の役に立っている人は無数にいるんだ。その人が立派であるかどうかは、名前を残したのか残さなかったのかでは到底測ることができないのだなと、「プロジェクトX」を見たり「地上の星」を聞いたりしていると感じた。

歌詞の意味が深い!中島みゆき「地上の星」は紅白後発売130周目にして1位に輝いた奇跡の楽曲だった

 

・名前を残さなくてもいいのならぼくたちは人生で何を残すべきだろうか

ぼくたち人間は、自分が死ぬということを知っている。これは他の動物にはない特徴ではないだろうか。人間は知能を持ち、言葉を得た。言葉と知能によって法則を生み出し、「人間は必ず死ぬ」という法則を言葉によって伝えられる。ぼくも幼い頃台所でお母さんに「人間は必ず死ぬ」と教えられたときは、かなりのショックだった。と同時に、自分はどうせ死ぬとわかっているのになぜ生きていかなければならないのだろうという問いかけさえ生み出すきっかけとなった。

どうせ死ぬのに生きるのはなぜだろう。一般的な意見としてよく出てくるもののひとつに「偉大な功績を残して、後の世に名を残すため」というのが挙げられるだろう。しかしぼくたちは既に名曲「地上の星」によって教えられている。名を残したかどうかは、その生命の価値を左右する要素とはならないということを。名前を残すことが重要でないのならば、一体何を未来に残すことが人間や人生にとって大切なのだろうか。もしかして遺伝子だろうか、それともお金だろうか。

死んだらすぐに忘れ去られるからこそ、あなたの生命は清らかで美しい

 

・命の証明として名前ではなく「愛」を残せと歌う中島みゆき「愛だけを残せ」

人間や人生が何を未来に残すべきなのかという答えを、中島みゆきは2009年発売のシングルで明確に叫んでいる。そのシングルの名前はまさに「愛だけを残せ」だ。

”愛だけを残せ 壊れない愛を
激流のような時の中で
愛だけを残せ 名さえも残さず
命の証に 愛だけを残せ”

「名さえも残さず」という歌詞が入っているところが、なんとなく「地上の星」や「プロジェクトX」を彷彿とさせる。ぼくたちは人生において何かを残したいと必死になるが何を残すべきなのか、何を残せるのかわからずに、その答えを発見できずにうろたえてしまう。そんな時に中島みゆきの高らかな声が響き渡る。まさに「愛だけを残せ」と。

この「愛」とは、若い男女が「愛してる」という時に使うような性欲にまみれた愛ではないだろう。おそらく慈しみの愛、無償の愛、アガペーのことではないだろうか。

”弱き者 汝の名を名乗れ しなやかに
強き者 汝の名を名乗れ ささやかに”

という歌詞に「汝(なんじ)」という普段あまり使わない、聖書の中によく出てくるような言葉が用いられていることから、キリスト教っぽい雰囲気を持ち合わせた歌でもあると感じられる。そういえばぼくがシベリア鉄道の旅をした時、列車の中でロシア人作家トルストイの「人生論」を読んで暇をつぶしていたが、その感動的な内容がまさにこの「愛だけを残せ」という言葉そのものだったことが思い出される。

 

 

・中島みゆき「愛だけを残せ」トルストイ「人生論」は無償の愛により繋がっている

人間は幸福になるために生きている。それは紛れもない事実だが、人間の本当の幸福というものはただひとつ「与える」ことによってしか達成されないとトルストイは「人生論」の中で説いている。理性を持たない動物的な人間というものは与えられること、愛されることばかりに執着しがちとなるが、そこからは不幸しか生み出されない。ただひとつ見返りを求めずに「与える」ことによってのみ、人間は果てしない3つの苦しみ、すなわち個人的な幸福を求める人間どうしの生存競争の苦しみ、生命の消耗と飽満と苦痛しかもたらなさいみせかけの享楽の苦しみ、死の苦しみからまったく脱却できるだろうと説かれている。

そしてこの「与える」という行為は、「愛」と呼ばれるものと同様だろう。中島みゆきが「愛だけを残せ」で高らかに歌っている内容は、トルストイの「人生論」と合致するものと思われる。名でもなく、遺伝子でもなく、富でもなく、愛を残すことだけが、人間に幸福をもたらす唯一の道なのだ。

中島みゆきは夜会の中で神道(金環蝕)や、仏教(今晩屋)に関する演目が目立ち、キリスト教などあまり関わりがないように見られるが、このようにキリスト教的な要素が垣間見える作品が密かに存在しているというのは興味深い。きっと別々の宗教としか見えなくても、その根っこのところでは通じ合える人間にとって最も大切な秘密が共通して存在しているのだろう。

西洋の繋がりの幸福・東洋の孤独な悟り

 

・中島みゆき「愛だけを残せ」を聞ける音楽作品一覧

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アルバムバージョンの編曲で歌われているライブの歌唱はこちらに収録!

 

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結局元気いっぱいのシングルバージョンを聞けるのは、今のところシングルのみ!

 

・中島みゆき「愛だけを残せ」を見られる映像作品一覧

ライブ映像はこちら「縁会」に収録されている。

 

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