ひとつずつの、そしてひとつの。
中島みゆき自身が夜会テーマ曲「二隻の舟」について語ったこと
・「二隻の舟」は夜会のテーマ曲
中島みゆきの「夜会」におけるテーマ曲といえば、「二隻の舟」という歌である。
難しいこと望んじゃいない ありえないこと望んじゃいないのに
風は強く 波は高く 闇は深く 星も見えない
風は強く 波は高く 闇は深く 暗い海は果てるともなく
風の中で 闇の中で たかが愛は木の葉のようにわたしたちは二隻の舟
ひとつずつのそしてひとつの
(この記事は著作権法第32条1項に則った適法な歌詞の引用をしていることを確認済みです。)
この歌は夜会の“テーマ曲”らしく、ほぼすべての夜会で歌われている。しかし歌のすべてのパートが歌われることは稀であり、ほとんど一部分を歌ったり、アレンジを変えられたり、時には歌詞や曲調すら変えられながら、夜会の中では演奏され歌われている。それでも物語の見せ場で歌われることが多い、重要性を担った曲であると言える。
映像作品を見る限り、夜会1990は見事にすべてを歌いきっており見応えがあるが、その他にはすべてを歌いきった映像作品はない。ぼくが「二隻の舟」で好きな場面は、夜会2/2におけるクライマックスの重要な使われ方だ。この場面では曲調さえ変えられて、前後の曲とつなぎ合わされてるにもかかわらず見事な調和を見せており、知っている曲なのに知らない曲を聞かされているような、不思議で新鮮な感動を味わうことができる。
また夜会金環蝕での「泣かないでアマテラス」から「二隻の舟」へのスムーズな流れも好きであり、要はその夜会というひとつの演目の中で、前後が見事に調和しているような使われ方が好きなのかもしれない。逆に際立って独立しながら一部分だけが歌われる場面はそんない印章に残っていないかもしれない。あとは、夜会問う女のドラマチックな編曲で、ドラマチックで心に染みる歌い方もとても好きである。
これが“テーマ曲”であるにもかかわらず、まったく歌われない演目も存在する。「ウィンター・ガーデン」「今晩屋」の演目がそうであり、どうしてテーマ曲なのにこれらの演目で歌われなかったかは定かではない。
・「二隻の舟」の音源は2種類ある
中島みゆきの夜会の映像作品を購入すれば、今晩屋以外は「二隻の舟」の一部分を少なくとも聞くことができるが、肝心のCDとしての音楽作品としては2種類を聞くことができる。
ひとつめは「10WINGS」に入っているヴァージョンであり、もうひとつは「EAST ASIA」に入っているヴァージョンである。ベストアルバム「大銀幕」にも収録されているが、こちらは「10WINGS」に収録されているものである。
ぼくは断然「EAST ASIA」に収録されている「二隻の舟」が好みである。なんだか「10WINGS」に収録されている方はなんだか堅実な感じがするが、「EAST ASIA」の方は心が本当に海の波に揺られているような、まさにそのような精神的な浮遊感、彷徨い感、途方にくれているドラマチックな感じがよく出ている気がするのだ。そして歌唱も後者の方が情緒深い気がする。
まだ2種類を聞いていない方は聞き比べてみても面白いかもしれない。
・中島みゆき自身が「二隻の舟」について語ったこと
今回、中島みゆきが「EAST ASIA」を発売した際に「二隻の舟」について語った部分があったのでここに紹介する。
中島みゆき:これは「夜会」のテーマ曲なんだけど、「夜会」のメンバーにそっくりそのまま来てもらって、スタジオ・ライヴ・レコーディングしたの。テンポがいい加減だから、スタジオ・ライヴしかやりようがなかったんですねぇ(笑)。何回も録って、その中でいいのを選んだ。アレンジの大筋は、最初の「夜会」の時に近いかな。その後2年やってる間に多少手直ししたところも加味して。
「夜会」ではステージに上るのが基本的に女3人ということに決めていたから、女から男に対するという意味での二隻とか、女の気持ちの共鳴という二隻とかも含めて、二隻をいろんなものの対比として使っていきたいなと思って、テーマ曲にした。だって一隻だったら、てしなく孤独なドラマをやらなきゃならないでしょ(笑)。最後ほうの歌詞が「ひとつずつのそしてひとつの」だから、どんなに離れててもワンぺというか、一隻なのね。もしかして最後はハッピーエンドかなとか、ちょっと可能性も見せておきたいじゃない(笑)。
この歌もそうだけど、わたしの歌に結構海の歌が多いのは、海の近くで育ったこともあるかもしれない。哀愁に近いものがあると思う。でも、海とかいっても、食べ物のいっぱいいそうな海ね(笑)。ウニとかアワビとかイカとかがいっぱいいそうな海がいいな(笑)。南の海の珊瑚礁にはあまり郷愁感じない。青い魚とか黄色いのとか、そんなもん塩焼きにしたって、なんかおいしそうじゃないもん(笑)。