バイカルの水
何が濁っていて 何が澄んでいるのか わたしたちには 何も見えていない 何が毒をもたらし 何が愛を注ぐのか わたしたちは 間違えてばかり 果てしなく深いふるえ 果てしなく透明な瞳 シベリアの真ん中で その姿は…
何が濁っていて 何が澄んでいるのか わたしたちには 何も見えていない 何が毒をもたらし 何が愛を注ぐのか わたしたちは 間違えてばかり 果てしなく深いふるえ 果てしなく透明な瞳 シベリアの真ん中で その姿は…
軌道よ 軌道よ 運命の軌道 おまえがどこへ行くか知っているならば 人は生きては行かぬだろう 外された軌道 遺された軌道 廃れた軌道 荒野に浮かぶ軌道 あてもなく敷かれた軌道の上を 今日も列車は運んでゆく 行…
シベリア鉄道は母胎への回帰道 どこまでも閉ざされた真空の中を 心地のよい暖かさにくるまれながら ゆらゆらと慣性力のままに傾く 時おり訪れる対向の車窓の光 時おり流れくる冷たい風と粉雪 時おり止まる駅における…
川の此岸にこの世があって 川の彼岸にあの世があって それならばこの川の水は どの世の水だというのでしょう この世にはまさに生きる生命があって あの世にはかつて生きた生命があって それならばあの川の真ん中の島…
ロシヤよ ロシヤよ わたしの心の根底に咲く花の色は 真白き雪に覆われて見えない いかように咲き誇られるだろう オホーツクの怪しく澄んだ青 雲ひとつない冬の空色のあいだ 飛び立った気球にも似た虹色 通りすぎの…
なにひとつ手放すことがないように この世で最も美しい衣をあげよう 過去と未来を揺らぐ光の絹の波 欠けてゆくことは幻だと告げよう 過去の言葉たちの中は 宝物であふれている いずれもぼくが生み出した言葉 他人の…
旅立ちました あなたの知らない時刻に 旅立ちました あなたの知らない国へと 別れなど言えないのは もういちどどこかで 必ず出会うことを 心のどこかで知っているから 変わり果てても見つけてね 遠く隔たってしま…
向こうに見えるのはロシヤだらうか どこからどこまでロシヤだらうか なにからなにまでロシヤだらうか 果てから果てまでロシヤだらうか 厚い外套を脱ぎ捨てたその先に わたしとロシヤの近隣があった 外套といふ一枚の…
ひとつひとつは小さな謎 小さな謎が世界中に散らばる けれどすべては繋がっている 小さな謎も繋がってゆく 小さな謎は繋がり合い 偉大なひとつとなるのではなく 連なり合い重なり合い 広い秘密の世界を紡ぐ 海のよ…
ロシヤの冬は寒いだらうか ひとつの軌道を抱きしめて どこまでも広がる雪原に 消え果ててしまいはしないだらうか なぜこの足は赴くのだらう 碧い王国しか知らないこの精神を まるで落とした冬を拾わせるようにして …