銀河・鉄道
わたしがわたしでなかった頃を この鉄道は呼び醒ます あなたがあなたでなくなる日を 真空の胎内に宿してゆく 肉体が生まれたこと 精神が生まれたこと 心が生まれたこと どれを境いになにを帰す 心が滅びること 精…
わたしがわたしでなかった頃を この鉄道は呼び醒ます あなたがあなたでなくなる日を 真空の胎内に宿してゆく 肉体が生まれたこと 精神が生まれたこと 心が生まれたこと どれを境いになにを帰す 心が滅びること 精…
あなたは確かにわたしを知っていた どことも知れぬ軌道の彼方に わたしの涙を確かに見ていた わたしは今証しを指し示す わたしは確かにあなたを感じてた 永遠をゆく旅路のどこかに けれど転轍が忘却を助けた あなた…
よく見ると水は わたしが思っていたのと 違う方向へ 流れていました わたしは水の流れに逆らって 歩いていたはずだったのに ふと気がつけばわたしは 水と同じ方へ流れていました 逆行と思えば順行していたわたしは…
何が濁っていて 何が澄んでいるのか わたしたちには 何も見えていない 何が毒をもたらし 何が愛を注ぐのか わたしたちは 間違えてばかり 果てしなく深いふるえ 果てしなく透明な瞳 シベリアの真ん中で その姿は…
軌道よ 軌道よ 運命の軌道 おまえがどこへ行くか知っているならば 人は生きては行かぬだろう 外された軌道 遺された軌道 廃れた軌道 荒野に浮かぶ軌道 あてもなく敷かれた軌道の上を 今日も列車は運んでゆく 行…
シベリア鉄道は母胎への回帰道 どこまでも閉ざされた真空の中を 心地のよい暖かさにくるまれながら ゆらゆらと慣性力のままに傾く 時おり訪れる対向の車窓の光 時おり流れくる冷たい風と粉雪 時おり止まる駅における…
川の此岸にこの世があって 川の彼岸にあの世があって それならばこの川の水は どの世の水だというのでしょう この世にはまさに生きる生命があって あの世にはかつて生きた生命があって それならばあの川の真ん中の島…
ロシヤよ ロシヤよ わたしの心の根底に咲く花の色は 真白き雪に覆われて見えない いかように咲き誇られるだろう オホーツクの怪しく澄んだ青 雲ひとつない冬の空色のあいだ 飛び立った気球にも似た虹色 通りすぎの…
なにひとつ手放すことがないように この世で最も美しい衣をあげよう 過去と未来を揺らぐ光の絹の波 欠けてゆくことは幻だと告げよう 過去の言葉たちの中は 宝物であふれている いずれもぼくが生み出した言葉 他人の…
旅立ちました あなたの知らない時刻に 旅立ちました あなたの知らない国へと 別れなど言えないのは もういちどどこかで 必ず出会うことを 心のどこかで知っているから 変わり果てても見つけてね 遠く隔たってしま…