カレル橋

 

 

欧州で最も古い石橋の上で
人々はPragueの街並みに夢中になる
ぼくは込み合った群衆を退いて
川のほとりからカレル橋を眺める

橋の姿は橋の中から見えはしない
まさにそのようにして
橋にたたずむ人々は
橋の正体に気付きはしない

ここにはぼくと白鳥だけ
誰も訪れない川の岸辺
橋の中に埋もれる人々
誰ひとり水の彼方を認めはしない

命というものも同じだろうか
まさに命の中にいるときには
命の正体を見ることはできない
姿も見ずに駆け抜ける炎の色

生きているときには
生きるということにだけ夢中になった
目先に浮かぶ蜃気楼のような美しさに
かまけていたら老齢に達した

死ぬという意味がわからない
生きるという姿が見えない
老いは戸惑いを隠しきれずに
無様におののき行方を探しあぐねる

橋から旅立つということさえ
思いつきもしないで
ただ橋の中にとどまり続けた
旅立つことを知らなかった

橋の真の姿を見つけようともせずに
浮世を彷徨うことだけに終始した
手渡された常識だけを鵜呑みにした
美しいと他人に言われたものをむさぼった

その命の果てに見える景色は
美しいPragueの城ではなく
荒れ果てた骨の残骸が積まれた
クトナー・ホラのおぞましき教会

人はいつしか古い石橋から
旅立たなければならない時を知る
橋の美しい正体を認めて
川の鏡面に真理の天を映そう

 

 

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