魂だけをあの島へと置いて来たんだ
あなたに好きだと抱きしめられたその時から
ぼくは魂を失ってしまった
現し身だけを引きずりながら異国を彷徨う
抜け殻となるかもしれない
災いが降り注ぐかもしれない
もう一度魂を拾い集める旅に出よう
海流に染められた島巡りの水色
愛されるべきだと信じられた少年が
愛されるはずのない運命を知り
やがて辿り着いた絶海の孤島で
あなたに愛していると告げられた
照りつける夏の日差しの中で
ぼくたちの果実は青い液体を滴らせた
何度解き放っても明日また天を貫く
ぼくたちの果実は永久に濡れている
生まれてきてもよかったと信じることが
ぼくにはどうしてこれほど難しいのだろう
他の誰もが容易く終われる問いかけを
ぼくは一生かけてひとつずつ解き明かすだろう
(沖縄では魂のことを「まぶやー」「まぶい」と呼び、驚いたり衝撃を与えられたりするとまぶやーを落とすと信じられています。まぶやーを落としたまま過ごしてしまうと様々なよくないことが起こるので、沖縄の人は驚いた時は「まぶやー、まぶやー」「まぶやー、まぶやー、うーてぃくーよー(追って来なさい、戻って来なさい)」とおまじないを唱えて地面に落とした魂を拾い上げるような動作をします。これは沖縄独自の感性かと最初は思っていましたが、日本語でも驚いた時に使う「たまげる」は「魂消る」と書くので、驚いた時に魂を落とすという感性は案外古来より日本中に根付いたものかもしれません。
ぼくは自分が男を好きになる男だと気づいた時、日々の生活の中で好きになった人には好きになってもらえない運命なのだと悟りました。けれど沖縄で暮らした大学生時代に、好きになった同級生の異性愛者の男の子と恋人のような関係になりました。もしかしたらあの時、ぼくはこの一生の中で起こるはずのない出来事に巡り会い、魂を落として来たのかもしれません。そしてそれに気がつかないまま、島を去った後も魂を持たないままで異国と祖国を彷徨い歩いて来ました。思いがけない運命のために島へと残してきた魂の欠片を、拾い集めるために島巡りの旅に出ようと思います。どこにあるのかもわからない魂に、呼び醒まされるように肉体は導かれていきます。)