シベリア鉄道は母胎への回帰道

 

シベリア鉄道は母胎への回帰道
どこまでも閉ざされた真空の中を
心地のよい暖かさにくるまれながら
ゆらゆらと慣性力のままに傾く

時おり訪れる対向の車窓の光
時おり流れくる冷たい風と粉雪
時おり止まる駅における雑踏は
やがて生まれ来るあの世への見果てぬ予感

不自由に動けぬままに成すのは
眠ること食べること出すこと
言葉さえも既に全くなくして
ぼくは赤子よりも物を知らぬ者になる

さまざまな魂たちが
列車の中にすれ違う
すべてはあの世へと生まれ落ちる前の
成熟と未熟を融け交わす

ロシヤの魂 日本の魂 韓国の魂
真空の中では国などあてもなく
男の魂や 女の魂や 中性の魂を
列車の胎内ではすべてはぼやけて

赤子の魂や 若人の魂や 初老の魂
鉄道はやがて銀河を駆けて時を砕かせる
医者の魂や 数学生の魂や 軍隊の魂や
星々が与えた使命をやがては洗い流して

ぼくたちは生まれるだろう
いつの日か混ざり合って
いつの日か離れ合って
星の軌道の運命を携えて

誰も彼のことも忘却して
けれどまた巡り会うのだろう
新しい運命をまた
受け取るために列車に飛び乗る

その日まで健やかにあれよ
ぼくの魂の欠片 君の魂の行方
ぼくは忘れても祈ってやまない
すべての魂が安らかにあること

また軌道の中に暮らそう
しばしの休息をあの世もこの世も離れて
ひとつの軌道は確かにぼくらのもの
外されはしない真実の駅へと向く

シベリア鉄道は胎内の宇宙への誘(いざな)い
彷徨う魂たちも受け入れられよう
生まれ変わる道を閉ざされた獣も
新しい水を注がれる線路だ

 

 

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