見えない果実

 

 

見えない果実をぼくにください
あるのかないのかもわからない
不確かな果実をぼくにください
掌の中の熱さだけが手がかり

抑えることのままならない幼さに
ふりまわされるぼくを君だけが知る
触れられるがままに鼓動を打つあどけなさに
立ち止まれない君をぼくだけが知る

ふたりの果実は衣を迫り上げて
やがて互いに見つめ合うことを夢見る
まだ誰にも見られたことのない秘密
少年の蜜の苦さを自分でも知らない

自分の果実を扱うように
君の果実を扱ったなら
悲しませることはないだろう
傷つけることはないだろう

けれど少しだけ君を傷つけたい
柔らかな果実にぼくの証をつけて
もう誰にもわからなくしたい
君が果実に夢中で遊ぶこと

少年たちは時を重ねて
透明な果実を揺らしていく
もうぼくたちは手をつなげない
意味のある微熱を捧げない

ゆるされないこととゆるされることを隔てて
ゆるされないことばかりを選んだ
春の木漏れ日の真ん中で
誰にも見えないふたりだけの国で

生きていたのか死んでいたのかわからない
誰もがこの世を去る時そう語るだろう
幻のように過ぎ去った君との時間
夢とも現とも定まらない春

あったのかなかったのかわからない果実
見えそうで見えなかった君の正体
互いの秘密を求めてさぐり合った
ほとばしる青い液体をぼくは忘れない

 

 

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