たったひとつの願い

 

 

欲しいものがたったひとつあった
行きたい国がたったひとつあった
けれど泣き疲れているうちに忘れてしまった
生きるほどに遠ざかって消えた

ぼくは何が欲しかったのだろう
思い出せないまま魂は移ろい
ぼくはどこへ行きたかったのだろう
あらゆる異国をさまよい歩いた

何ひとつ欲しいものなんてないのに
どうしてぼくは泣いているのだろう
どこにもたどり着きたい国はないのに
どうしてずっと泣いているのだろう

それはただひとつの願いだった
叶わないことを知って心を閉ざした
忘れたことさえ忘れてしまっても
夢の中でひとり少年は祈り続けた

強く願えば叶うと信じる瞳を
世を知る大人たちは見下して嗤った
諦めの悪い心はよくないものだと
絶えぬ炎に砂をかけて塞いだ

たったひとつを叶えるために
ぼくはこの世に生まれたのに
たったひとつを隠されて
何も見えなくなっていた

泣き疲れて少年が眠るころ
不意に願いは叶えられる
燃え盛るように旅を続けたその果てで
忘れてしまった祈りは報われる

本当はずっと泣いていたんだね
まともな人になったふりをして
根の国に隠れて祈り続けた
ひとときも祈りを絶やすことはなかった

ぼくはこれが欲しかったんだと
天から救いを注がれる夜がきっと来る
ことごとく傷つけられた祈りの果てで
切なる願いが生きる意味をもたらす

 

 

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