ぼくは異国を旅することができない
どんなにはるか遠くまで
肉体を旅立たせても
心まで旅立たせることはできない
もしかしたら誰もが
そうなのかもしれないわ
あらゆる心はひとところに留まり
旅立ちをゆるされないのかもしれない
異国へと肉体を旅立たせる度に
見える風景は故郷の清流ばかり
清らかな水面に異国の姿を映し出し
時の止まった昔の故郷が見える
異国の風を肉体に受けて思われるのは
もののあはれの慰めばかり
どこまでも清流の感性を引き継いで
やがては帰る時を待つの
異国をさまよい受け取るものは
異国の人となる我にはあらず
なぜか濃厚になりゆく祖国の陰影
ぼくは心を置き去ったのか
尽きることのない清流の生まれが
森林の土からあふれ来るように
まさにそのようにしてぼくたちに
昔の祖国は果てなく語りかけるだろう
異国を旅したからとて
異国を語る者は偽物だ
昔の祖国を深く教える者の
語りにのみ真実の耳を傾けよう