アマルフィへの階段

 

 

海へと駆け下りる階段を覚えている
青く光輝いていたのも束の間
やがては淡く薄い夢のように
彼方へと消えて行ってしまわないで

艶やかに咲き誇るコクリコの群れ
青空に映り込む教会の白さ
麗しい海と街並みがギリシアのようだと
訪れたこともない国を思った

誰ひとりにも出会わないぼくの幸福
ぼくと海と階段だけが世界へとつながって
まるで空の彼方へ飛んでいけそう
朝の光たちが清らかに降りそそぐ

駆け下りてしまえば港の街がぼくを待っている
エメラルドの洞窟
古代を示すキリストの祈り
オレンジとレモンのジェラート

けれどアマルフィへたどり着いたなら
この階段が終わってしまうなら
どうかずっと続いていてください
あの海へといつまでも届かないように

駆け下りれば必ずどこかへと向かうのが
階段と呼べるものならば
ぼくはその始まりと終わりを忘れて
海と階段とだけ生きていきたくなった

人がいないことを孤独と言うけれど
ぼくにとっては人のいることが孤独だった
海と階段はどこまでもぼくを裏切らずに
誰も知らない天空へとぼくを運んでいく

 

 

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