赤い風船が虚空の中へ消えた
つまずいたぼくは小さくなりゆくそれを
いつまでもいつまでも見ていた
消えて見えなくなるまで見ていた
赤い風船はどこへ行くの
幼いぼくはおばあさまに尋ねる
おばあさまがなんと答えるか
ぼくは聞かずに大空を見上げた
どんなに祈っても戻ってこない
赤い風船は遠ざかる人の心
柿畑のわきの細い畦道から
立ち上がるぼくは痛みを忘れた
風船は上へ上へとのぼってゆく
空の上には何があるの
空の彼方へ帰ってゆくの
宇宙の果てまで旅をするの
風船はいつしか現の世界を終えて
ぼくの中の宇宙へと移ろう
永遠に永久に昇華される
記憶が途絶えても浮かび続ける
おばあさまは赤い風船のことを
忘れていたねぼくはいつまでも
憶えているよたとえそれを
思い出せなくなったとしても