銀色の猫が待っているから
あの人の部屋を訪ねてゆくの
神社の傍を通ってすり抜けてゆけば
この世とあの世を分かつ神楽坂の世界
相変わらず懐かないままで
久しぶりだと寄り添うこともしない
無視をすればかまって欲しがるのに
手をのばせばよそへ消えてゆく
どんなに愛を手元に抑え込んでも
すり抜けてゆく 免れてゆく
寄り添い合えばあたたかいというのに
凍える自由な世界へと逃げ込んでゆく
銀色の猫が一緒に寝てくれないから
代わりにあの人と眠ることにしたの
世界で一番嫌いな煙草のにおいが
髪の奥まで染み付いて逃げ出せない
忘れた頃に足元に顔を押しつけて
やがて鼻でキスをし合う
好きなの 嫌いなの それとも猫に
愛を問うなんて野暮なことかしら
銀色の猫の住む部屋は煙臭くて
宮古の海の色の宝石が光っていた
愛していたの 眠っていたの
昔の海の色なんて気にも留めない
世界で一番嫌いな煙草のにおいが
体中に染み込んで消えるまで幾日
別れを惜しまない銀色の猫の瞳が
ぼくの代わりにあの人を見守るだろう