人は誰も掌にナイフを持っている
彼らはそれとは気づかなくても
生きているだけで世界を切り裂く
分裂された世界で誰かを傷つける
ぼくたちの生命の正体は善良か
ただ切り裂くための悪魔か
誰もが自分を愛しているから
生命を素晴らしいと褒めるだろう
もう誰も傷つけたくないと
どんなに悲しく泣き叫んでいても
生きていることはナイフをふりかざす
生きている孤独は色彩を濃厚にする
立ち止まればそれで終わりだろうか
命を手放せば呪いは解けるだろうか
どうすればナイフを持たずに
たったひとつの世界を歩けるだろう
勇気を出してナイフを捨て去れば
ぼくたちはひとつの世界に押しつぶされてしまう
ふたつに分裂した世界だからこそ
ぼくたちは容易く息ができる
男と女を分け隔て
生と死を分け隔て
彼岸と此岸を分け隔て
あなたとわたしを分け隔て
橋すら架からない岸辺に立ちすくみ
たどり着けない彼岸を思う
川水の中へ飛び込めば
燃え盛る魚たちの生命が見える
ぼくたちはひとつに溶け合ったんだ
ふたつの果実を揺らしながら
それでもひとつへと帰ったんだ
たとえ離ればなれになったとしても
愛されたことがナイフを消したんじゃない
愛したことがナイフを手放させた
ぼくは君の果実の熱を忘れない
脈打っていた果実の果てを忘れない