誰も旅したことのない国なんてない
誰も眺めたことのない風景なんてない
誰も語ったことのない言葉なんてない
誰も思いついたことのない考えなんてない
それでもぼくたちは思い上がり
自らの旅は特別なのだと見せびらかす
おまえたちはこのような異郷にはたどり着けないと
肥大する見下しが自らを追い詰める
誰かがさまよう異国だった
誰かが望んだ絶景だった
誰かが見つけた詩集だった
誰かが既にひらめいていた
けれどぼくにとっては疑いようもなく
この生命にはじめて注ぎ込まれる奇跡たち
ゆるされることのなかった深い罪が
繊細に天へとほどかれてゆく
あらゆる過去を背負う遺伝子たちが
膜を跳ね上げるようにして今へ去来する
時の先端としての現在をまさぐって
新たなる飛翔は解き放たれる
これは兜率天へゆく旅姿だ
誰にも見えない魂の旅姿だ
真理の国を指し示す銀河が
細胞の中の鏡面に輝く
これは兜率天へゆく旅姿だ
誰も知らない涙の旅姿だ
少年が激流を生み出す代わりに
水色の感性は旅立ちを告げる