疑いの深遠なるその瞳に救いを

 

“燃えるような疑いは
ぼくが誠実に生きなかった証し
恥じなさい疑いを
他人も自分と同じように
裏切ると思い込む気持ちを”

疑いの深遠なるその瞳に救いを

・もうひとりのあなたがいる

優しそうな言葉の裏に、別の言葉が潜んでいるかもしれない。誠実そうなその顔の陰に、別の顔が隠されているかもしれない。

疑うのは誰のせい。疑いはどこから訪れる。

果たされることのない約束に、何か別の理由があるのかもしれない。噛み合わない話の端々に、愚かな嘘が生きているかもしれない。

疑うのは何の故。疑いはどこから来るの。

目の前のあなたではないあなたを、あなたは隠しているのかもしれない。目の前の人ではない誰かを、人は誰もが隠しているのかもしれない。

もうひとりのあなたがいる。あなたがそれを隠している。誰もが心の裏側と表面を、直結させてあまりに素直に生きているなんてありえない。

清らかなもの、純粋なものは、この浮世では生きづらい。嘘をつき、悪意を売り、他を押しのけるほどでなければ、この世では生きられない。誰もが、誰も知らない自分を持っている。誰もが、それを隠しながら笑っている。匿うことに誇りを抱いて。

 

 

・もうひとりの自分がいる

もうひとりのあなたがいるのでしょうと、疑いを燃えたぎらせるのは、あなた自身が偽りの自分を、その心に隠しているから。

嘘をつくあなた。偽るあなた。欺くあなた。裏切るあなた。

そのすべてが、あなたの疑いの炎をつくりだす。わたしという人間が、このように心の裏で別の自分自身の悪意を蓄えているのだから、他人もすべて、同じように、悪意というナイフを隠し持っているに違いないと感じる。

そしてあなたはこの世でもがき苦しむ。誰も信じられずに嘆き続ける。誰かを愛したいのに、疑いの炎が邪魔をする。誰かを信じたいのに、疑いの炎がその祈りを焼き消す。やがては自分自身が、疑いの炎に焼かれて、骨肉もろとも殺される。滅びたその瞳に、救いは浮かばない。

 

“君はひどい目にあいすぎて
疑い深くなってしまった
身を守るのはもっともだけど
世界全部毒だなんて悲しいよ”

 

・悲しい偽りの彼方に浮かぶ疑いと、救いの色彩

どうして燃え盛っているのだろう。黒くうつろな疑いの炎。いつから燃えたぎっているのだろう。愚かで悲しい偽物の炎。

傷つき果てたその先で、ぼくは心に醜い火をつけた。望みの絶えたその岸辺で、ぼくは炎になにもかもを投げ込んだ。

決して悪人になりたくはなかった。善良な精神を疑いなく夢見ていた。

仕方のない嘘がある。仕方のない偽りがある。仕方のない欺きがある。仕方のない裏切りがある。

正常に生きられる種類の人間は、それを悪人だと呼んで責め立てる。どうしようもなく崩れ落ちる悪人は、正常というあまりに卑怯な剣によって、この世を追われる。

どうしようもない悪がある。どうしようもない炎がある。どうしようもない疑いがある。

どうしようもない清らかな悪に染められて、自らを滅ぼさざるを得ないあなた。どうしようもない美しい疑いに燃やされて、すべてを失おうとするあなた。この世の光はどこにある。どうしようもない身への救済など、見果てぬ夢だろうか。

 

人を愛したい、ただそれだけだった。人を信じたい、ただそれだけだった。難しいことなんて、なにひとつ望んでやしなかった。それなのに運命は、どうしようもない悪を生み出す。

すべてを失った人にしか、見つからない光がある。すべてを失った後にしか、見つからない異郷がある。それを誰もがさがしている。それを誰もが切望している。けれど誰も見つけきれない。今所有しているものを、手放すことを恐れて。

なにもかもを失って、とこしえの旅に出よう。肉体や魂さえ失って、それでも旅は続くだろう。どうしようもない悪には、この世で救いは現れない。どうしようもない悪それこそが、この世を超えてやがてたどり着く、天空の城への道。怠ってはならない。怠けてはならない。山奥の清流のような瞳で、大いに傷つきながらでも、この世を遡ってゆけ。

はるかなる海を終えて、混沌たる濁世を終えて、冷ややかな清流を終えて、なつかしい祖国へと帰り着くだろう。それは人間たちがいうところの祖国ではない。人間たちが信じるところの国などない。それはまるで、異国のように美しい祖国。

“まだ知らないどこかへ踏み込むときの
矛盾するように懐かしい感覚が 心に広がる”

 

 

 

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