与えられるはずのない
定めを引き受け旅は始まる
失くすはずのないものを
喪失しながら旅を継ぐ
どうしようもなく悲しい心を
歩ませるのは学問ではなく
どうしようもなく痛む傷を
忘れさせるのは習わしではなく
それはいつの日も歌だった
歩くことさえままならない足を
前に進め続けたのは歌だった
決して時間なんかじゃなかった
歌を歌う彼女は化身だった
この世にいる必要もなかった魂が
衆生を導くために立ち現れる
まぎれもない化身をぼくは今夜見た
救い続けて与え続けて
歩けるようになった小さな獣を
見届けて彼女はこの世から消える
跡形もなく帰り着く場所へ
小さな獣は悲しい記憶を凍らせて
か弱い心は傷を消さずに受け取って
とめどない旅立ちの時を知った
ぼくでも歩けることを知った
生きている仏を見た後は
生きている仏は消え去る定め
突き放すという愛を
胸の中にいつも満たしながら
あなたがいたからこの命は歩いている
歌を刻みながらこの命は旅を生きる
どうか別れの後でさえ
白雪の中にあなたを見つけて